攻略・理論編

切削だけで「仕上げる」時代に
送りと回転を高速化

 現在難削といわれる材料は、多くが切削時に生じる熱によって悪影響が生じるものだ。最近はそれに加えて、面粗さの小さい高品位な切削面を得るのが難しい材料も難削と考えるべきだろう。今はもう切削自体、つまり材料の一部を除去できればそれでよいという時代ではなく、高品位な切削面を得なければならない時代になっている。

 材料によっては、切削面に微小な割れを含む劣化層が生じがちな場合がある。このようなことでは、切削の難しい材料をあえて使ってまで実現しようとした部品の機能を満足できない。あるいは、荒っぽい加工で熱変形や応力が残留することがある。例えば、航空機用のチタン(Ti)合金の部品に内部ひずみを残したら、最悪の場合墜落事故の原因になるかもしれない。

 難削材料では多くの場合、鋼と比較すると工具や機械のわずかな誤差やブレが切削面に拡大して表れる。ただし、難しい材料だからといって、刃先で発生する現象の本質が根本的に異なるわけではない。

 基本になるのは、刃先でどんな現象が生じているかを把握し、それに応じて対応策を講じることだ。大抵の場合良好な切削面を得ることが可能である。


〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

図1●切りくずと熱の動き
切削による熱は主にせん断部分で発生する。高速で切削すると、薄く長い形の切りくずになり表面積が大きくなるため熱が移行しやすい。
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松岡甫篁(まつおか・としたか)
松岡技術研究所 代表取締役
日立製作所、セコ・ツールズ、GEスーパーアブレイシブなどを経て1987年松岡技術研究所を設立。技術士(機械部門)、工学博士(東京大学)。高速切削、NC切削加工、切削工具、金型生産などの技術開発や生産技術に関する教育などを中心に企業の技術顧問、異業種交流のコーディネータとして活躍。著書に『プラスチック射出成形金型』(共著、日経BP社)、高速ミーリングの基礎と実践』(共著、日刊工業新聞社)、『型技術便覧』(共著)など多数。