挑戦・金属編

超硬合金 【東京鋲螺工機】

金型の寿命が1.5倍以上に
直彫りで圧縮残留応力を導入

 「ものづくりの高付加価値化の流れの中で、従来よりも強度や耐熱性などに優れた材料が使われるケースが増えてきた。その分、金型への負荷が増し、耐衝撃性や耐摩耗性に秀でた超硬合金製金型のニーズが高まっている」。こう明かすのは、東京鋲螺工機(本社埼玉県新座市)代表取締役社長の高味寿光氏だ。

 同社は、ねじやリベット、電気接点などを製造するための冷間圧造用金型(ヘッダ金型)をはじめ、精密プレス金型や伸線ダイスなどを手掛ける。中でも、主力製品はヘッダ金型だ。

 同金型を用いる冷間圧造は、常温で絞り加工や据え込み加工、中空加工といった圧縮成形を施す成形法で、加工速度が速い点に大きな特徴がある*1。その加工条件の厳しさから、ヘッダ金型には高いレベルの耐衝撃性や耐摩耗性が求められ、炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)から成るWC-Co系合金に代表される超硬合金が広く用いられてきた。

 文字通り、超硬合金はロックウエル硬さHRAで80~94と極めて硬い。そのため、加工方法としては放電加工が主流だ。東京鋲螺工機でも放電加工機を8台導入し、微細穴や異形、深穴などの加工と、仕上げに職人の手作業による鏡面(ラップ)加工を実施している。

 ただしこうした放電加工には、加工時間が長い、電極が必要になる、金型亀裂の起点となるマイクロクラックが発生しやすい、といった弱点がある。これらを克服すべく東京鋲螺工機は、切削による直彫り加工に挑戦した(図1)*2。そこには、同社の生き残りを懸けた、こんな決意も込められている。

図1●直彫り加工で製造した超硬合金製金型「Tokyo-ACE(第一世代)」
図1●直彫り加工で製造した超硬合金製金型「Tokyo-ACE(第一世代)」
上段左から、精密プレス金型のサンプル、電気接点用金型、大径リベット頭部用金型、軸受の鋼球用金型。下段左から、山型パンチの形状サンプル、右が歯車形状金型のサンプル。

*1 例えば、1分間当たりの生産量は軸受用の鋼球で1000個、ねじで50~200個という。

*2 最初はレーザ加工を検討し、除去加工ができることを確認した。しかし精度と加工面の性状が悪いため、実用化には至らなかった。

超硬合金 【フォワード】

リードタイムが1/3に短縮
サブμmの切り込みで研磨レス

 精密加工のフォワード(本社長野県諏訪市)は、2012年に超硬合金の切削に取り組み始めた。まだ定常的に受注業務としてこなす段階には至っていないが、加工サンプルを展示会に出展するなどの活動を積極的に進めている(図1)。「開発案件として共同で取り組んでもらえるパートナーがあれば、ぜひ協力したい」(同社代表取締役社長の堀内岩夫氏)という。

 フォワードはこれまでも、チタン(Ti)合金、インコネル、ハステロイなど、一般に難削材とされる金属の切削加工、研磨加工を手掛けてきた。ステンレス鋼、アルミニウム(Al)合金、Ti合金などを高い平坦度(10μm)で仕上げる研磨加工も得意としている。用途は半導体、航空機、事務機器、液晶ディスプレイなどの生産ラインの治具や精密部品などだ。


〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

図1●超硬合金を切削加工で削り出したサンプル
図1●超硬合金を切削加工で削り出したサンプル
(a)がベベルギヤの金型の形状、(b)が回転羽根の形状。(b)はAl合金などの場合、表面を加工した後で裏面も加工できるが、超硬合金の場合には現状のところ表面からの加工にとどまる。