欧州ジャーナリストの視点
フリーランス・ジャーナリスト Ian Adcock氏
英国在住。『What Car』『Autocar』『Motor』などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。自動車技術専門誌の『European Automotive Design』誌に寄稿するなど技術にも詳しい。

 Sebastian Vettel選手は、憎らしいほど楽々と、カナダで今シーズンのF1の3回めの優勝を飾った。フランスRenault社がエンジンを供給するRed Bullチームは、もう一度その無敵ぶりを示した。しかし、F1に巨額の投資をしているにもかかわらず、Renault社はそこでの成功を、フランス市場での販売に結びつけることができていない。

 Renault社は、フランスでのライバルであるPSA Peugeot-Citroenグループと同様に、欧州での販売不振に苦しめられている。2013年の第1四半期に、Renault社の販売台数は前年比で4.7%減の60万8455台にとどまった。同じ時期のRenaultグループの総売り上げは82億6500万ユーロ(1ユーロ=130円換算で1兆744億5000万円)で、前年比で11.8%も落ち込んだ。

 問題は、同社がなぜこのような深刻な不振に陥ってしまったのかということだ。私が前回このコラムで書いたように、欧州におけるすべての中級ブランドは、Renault社と同様な状況になっている。すなわち、プレミアムブランドに上から、低価格ブランドには下から圧迫されているのだ。それに加えて同社が不振なのには、もっと根本的な理由がある。

以下、『日経Automotive Technology』2013年9月号に掲載