エアバッグやABSと同様に、自動ブレーキが近い将来に当たり前の装備になりそうだ。その推進力は三つ。一つは、コストが急速に下がっていること。もう一つは、自動ブレーキの機能がついているかどうかが、クルマの売れ行きを大きく左右するようになっていること。そして三つ目が、欧州の新車アセスメントプログラム(Euro NCAP)の評価項目に2014年から自動ブレーキが加わることである。

 日本で発売される輸入車で異変が起こっている。小型車から高級車まで、例外なく自動ブレーキ機能を中心とした先進ドライバー支援システム(ADAS)を標準装備するようになっているのだ。

 その先触れとなったのが、フォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)が2012年10月に発売した「up!」。149万円からという、現在販売されている輸入車で最も低い価格であるにもかかわらず、レーザレーダで前方を監視し、30km/h未満で走っているときに先行車に追突が避けられないと判断すると、自動的にブレーキをかける「シティエマージェンシーブレーキ」を全車種に標準装備した。

5万円で自動ブレーキ

 その後も、自動ブレーキを標準装備する輸入車は、ボルボ・カー・ジャパンが2013年2月に発売した5ドアハッチバック車「V40」、メルセデス・ベンツ日本が5月に部分改良した「Eクラス」、VGJが2013年6月に発売した新型「ゴルフ」など枚挙に暇がない(表1)。

 全車種に標準装備する動きはまだないものの、同じ時期に国内メーカーでも自動ブレーキの普及は進んでいる(表2)。先行するのが、ステレオカメラを使ったドライバー支援システム「Eye-Sight(ver.2)」を2010年5月から実用化している富士重工業。マツダや三菱自動車も、比較的低価格の自動ブレーキ機能を搭載し始めたほか、軽自動車でもこうした動きは広がりつつある。ダイハツ工業は、レーザレーダを使った自動ブレーキ「スマートアシスト」を、2012年12月に部分改良した「ムーヴ」から搭載し始めた。

 スマートアシストの場合、搭載車種の価格を、横滑り防止装置(ESC)とセットで、搭載しない車種の5万円高という非常に低い水準に設定した。ドイツVolkswagen社のシティエマージェンシーブレーキは、国内では標準装備となっているが、例えば英国でのオプション価格は、ESCとセットでやはり約5万円(337.5ポンド、1ポンド=149円換算)となっており、この5万円という価格が、世界的な標準になりつつあるとみていいだろう。

 自動ブレーキ機能の低価格化でやや後れをとったトヨタ、日産、ホンダの大手3社は、今後、より安いシステムを商品化する方針だ。例えばホンダは低価格の自動ブレーキ「City-Brake ActiveSystem」を年内に発売する次期「フィット」に設定することを明らかにしている。ダイハツのスマートアシストと同様に、レーザレーダを用いた低速域での自動ブレーキ機能で、ダイハツと同程度の価格設定になると見られる。

以下、『日経Automotive Technology』2013年9月号に掲載
表1 最近発売された輸入車が搭載している自動ブレーキ機能
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表2 国内各社が搭載している普及価格帯(20万円以下)の自動ブレーキ機能
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