Part4:システム化に課題

バリュー重視から付加価値重視へ
欧米部品メーカー頼みからの脱却必要

バリューフォーマネー戦略で成功してきたHyundai Kiaグループ。より高付加価値な商品領域への移行を目指して目標を日本車から欧州車に切り替えた。しかし、高コスト化と部品メーカーネットワークの壁が立ちはだかる。他社との差異化を実現するには先端技術を追わず、追従する戦略では限界がある。制御の重要度が増すなかで、システム技術の高度化も必要だ。

 Hyundai Kiaグループの戦略を「ボリュームゾーンのモデルに絞って必要十分な品質・機能・価格をバランスさせる」とみるのが、コンサルティング会社のローランド・ベルガーでシニアプロジェクトマネージャーを務める貝瀬斉氏である。売れ筋モデルに開発を絞り、日系メーカーに近い品質を、より安い価格で提供するという二つの手法を基本としてきた。

 この方針はパワートレーン分野でも貫かれており、これまでコストを重視して高価な仕組みは積極的に採用してこなかった。ただし、Part 2で述べたように、バリュー重視からブランド力重視への転換には、差異化のアイテムが必要。利益の大半を稼ぐ韓国内で輸入車のシェアが高まり、国内の高級車で儲けるという利益構造が揺らいでいるなか、国内、海外において、より上級車種で戦うことが避けられない。

Volkswagen社を追う

 こうしたことを見越して、同グループは開発のベンチマークをこれまでの日本車から欧州車へと変えている。具体的なメーカーを名指しているわけではないが、欧州メーカートップのVolkswagen社を目標とするようだ。特にパワートレーン分野では、直噴ターボエンジンのラインアップを拡大し、DCT(Dual Clutch Transmission)も製品化するなど、Volkswagen社の戦略に追従している。

 現在、直噴ターボエンジンは排気量1.0L、1.6L、2.0Lの3種類。1.0Lは3気筒で、1.6Lと2.0Lは4気筒。1.6Lは出力150kWで「Veloster」に搭載する(図1)。2.0Lは「Sonata」の上位グレード向けで出力202kWを発揮する。

 ただし、今のところ高出力バージョンとしての位置付けで、Volkswagen社のようにベースグレードに設定する状態にはなっていない。これは、ターボや直噴システムの部品メーカーが周囲に十分育っておらず、システムが高価になり、安価なモデルに導入できないからだ。

 直噴ターボ以外にも、同グループは2013年から他社に先駆けていち早くFCV(燃料電池車)を量産化するなど環境車の開発にも取り組んでいる(p.51の別掲記事参照)。2009年からHEV(ハイブリッド車)を実用化したほか、2015年にPHEV(プラグインハイブリッド車)、2016年にHyundaiブランドでEV(電気自動車)を投入する計画だ。

 だが、2020年までのパワートレーン動向を分析したIHS Automotiveによると、日米欧のメーカーは今後電動化を重視するグループと、過給機付き直噴ガソリンエンジンを増やすグループの二つに分かれるが、Hyundai Kiaグループはどちらの分類にも入らないとする(図2)。2013年時点で電動化に注力するのはトヨタ自動車とホンダのみ。一方、過給機付き直噴エンジンはVolkswagen社とドイツBMW社、米Ford Motor社の3社が力を入れている。2020年には、前者にRenault日産グループが加わり、後者には米GM社、フランスPSA PeugeotCitroenグループが参加する。

以下、『日経Automotive Technology』2013年9月号に掲載
図1 直噴ターボエンジン
「Gamma 1.6T-GDI」
図1 直噴ターボエンジン「Gamma 1.6T-GDI」
2012年に「Veloster」に搭載した最新エンジン。可変バルブタイミング機構、ツインスクロール式ターボチャージャを採用し、排気量1.6Lで最高出力は150kW。
図2 主要メーカーのパワートレーン動向
2020年になると、電動化を増やすメーカーと過給器付き直噴ガソリンエンジンを増やすメーカーに分かれる。Hyundai Kiaグループはどちらにも入らないと見られる。(出典:IHS Automotive)
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