2013年6月号からは「関伸一の強い工場探訪記」をお届けします。日本にあるさまざまな業種の工場を、工場長の経験もある筆者の関氏が訪問し、表面的な数字だけでは分からない優れた工場の強みや特徴など現場の生の姿をお伝えします。

デジタルとアナログが融合した楽器作り

今回訪れたのは、楽器業界の雄、「YAMAHA」ブランドの管楽器、弦楽器、打楽器を製造しているヤマハミュージッククラフト(以下YMC)の飯田工場(浜松市)である*1。同工場は主に弦楽器(アコースティックギター、エレキギター、サイレントバイオリン)を製造しており、中学生時代からアコースティックギターを弾いてきた筆者にとって、実に楽しみな工場探訪である。

いざ、工場へ

 今回は、YMC代表取締役社長の黒澤志郎氏、飯田工場の責任者であるGD生産部長の入谷望氏の案内で、筆者ともう1人、ヤマハ発動機OBの西村技術研究所(浜松市)代表の西村誠一氏が工場に入った。まず通されたのは素材倉庫。そのほとんどが、定寸に加工された木材だ(図1)。

 アコースティックギターを弾いたことのある方なら1度は耳にしたことがあると思うが、ローズウッド、スプルース、マホガニーなど、世界中から集められたさまざまな木材がサプライヤーによって定寸加工され、この倉庫に納入される*2

 
〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●材料倉庫
図1●材料倉庫
さまざまな木材が世界中から集められている。

*1 生産拠点は国内および、中国とインドネシアに各2拠点あり、国内拠点がハイエンド製品、中国拠点がミッドレンジからハイエンド、インドネシア拠点が普及品からミッドレンジとなっている。例えば、ドラムセットの高級品は国内、それ以外は主に中国で生産している。小中学校の音楽で使われるリコーダーは年間400万本がコンスタントに販売されており、これはYMC豊岡工場(静岡県磐田市)とインドネシアで生産している。

*2 現在、ギター材質で最高級とされる「ハカランダ」はワシントン条約で輸出入が厳しく規制され、そのため価格も高騰している。

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経てローランド ディー.ジー.に入社。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。28年間の製造業勤務を経て、3年前に「関ものづくり研究所」を設立。静岡県浜松市在住の55才。