2013年5月号からは、「250万件の特許で問題を解決する TRIZの日本式活用法」をお届けします。旧ソビエト連邦で生まれた問題解決理論のTRIZは、1990年代に日本でブームになった後に衰退しましたが、その間、日本独自の活用法が生まれて使いやすくなりました。その中身を解説します。

問題の根本原因はこう探す

 前回は、TRIZの全体構成と具体的な内容について説明した。今回は、そのTRIZの効果を最大限に享受するために日本で培われた「日本式活用法」の内容を具体的な事例と共に見ていく。

 最初に、日本式活用法の全体プロセスをおさらいしておこう(図1、2013年6月号p.120を参照)。

 日本式活用法では、TRIZの手順に入る「前」と「後」に独自の工程を追加する。前工程では、自身が抱える開発課題の本質的な原因(根本原因)を探る。具体的な手法としては、機能面から原因を探る「機能―属性分析」と、問題の結果から順に原因をたぐり寄せる「原因―結果分析」の2つを実施する。これらを適切に実施して問題の根本原因を明確にしておかないと、あやふやな問題意識のままTRIZの手順に入ることになり、その結果、得られる解決策があいまいなものになってしまう。この点で前工程は、TRIZ活用を成功に導く上で重要なカギを握る。

 前工程で根本原因を明確にしたら、TRIZの3つの手法を使って問題解決に向けたアイデアをチーム全員で出していく。あらゆる角度から問題を観察し、さらに過去の特許事例と対比することで思考を広げるのだ。これにより、大抵の場合、500件以上のアイデアを得られる。

 後工程では、TRIZで導き出した大量のアイデアを整理/分類し、取捨選択したり複数のアイデアを組み合わせたりして最終的に1つの問題解決策に収束させていく。具体的には、米Massachusetts Institute ofTechnology(MIT)教授のStuartPugh氏が提唱した「Pughのコンセプト選択法」をアレンジした方法を活用する。

 今回から次回にかけて、この一連の手順を1つの事例を基に解説していく。そのうち今回は、前工程からTRIZ手法の1つである「矛盾の克服(発明原理)」を用いたアイデア出しまでを取り上げる。


〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●TRIZの日本式活用法の全体プロセス
日本式活用法では、TRIZの前と後に独自の工程を追加する。問題の本質的な原因(根本原因)を突き止める前工程では、機能面から原因を探る「機能―属性分析」と、結果から順次原因をたぐり寄せる「原因―結果分析」を実施する。そうして突き止めた根本原因を基にTRIZでたくさんのアイデアを出し、後工程で「Pughのコンセプト選択法」を用いて自身の問題に対する解決手段、例えば新製品を開発する場合は製品コンセプトに落とし込んでいく。
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前古護(ぜんこ・まもる)
アイデア 代表取締役社長
日本電装(現デンソー)入社後、パーティクル低減や新製品立ち上げなどフォトリソ工程を主とした製造技術分野に従事。1990年に同社を退社。コンサルティング会社を経た後、2003年にTRIZを中核にプロジェクト・コンサルティングによる実務テーマ解決を支援する株式会社アイデアを設立。クライアント企業は国内外を含め380社に上る。2005年から大阪産業大学非常勤講師。2013年1月から日本TRIZ協会の副理事長。

桑原正浩(くわはら・まさひろ)
アイデア TRIZプログラム担当ディレクター
カヤバ工業(現KYB)でサスペンションの開発設計、オムロンで電磁リレーの開発設計やプロジェクトマネジメントに従事後、技術問題解決コンサルタントとして独立。現在、アイデアのTRIZコンサルタントとして、国内外企業の技術開発テーマの創造的問題解決に関するコンサルティングに従事。著作物は「効率的に発明する:ロジカルアイデア発想法TRIZ」(SMBC出版)、「使えるTRIZ」(日刊工業新聞社「機械設計」連載)など。