2012年12月2日に発生した中央自動車道・笹子トンネル事故では、走行中の自動車3台が落下した天井板の下敷きとなり、死者9人を出す惨事となった。国土交通省は、「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」(以下、委員会)を設置して原因究明に当たってきたが、2013年5月28日の第5回会合において、設計、施工、維持管理全てに問題があったとする見解を示した*1。併せて、天井板を支える接着系アンカボルト(以下、接着系アンカ)*2が、当初の設計時点で2程度の比較的低い安全率しか確保できていなかった事実も新たに公表した。

見逃した水平方向の風

 事故前の笹子トンネルは車道部と換気用の天井部を、プレストレスト・コンクリート*3(PC)板で上下に隔て、天井部にはトンネルの長手方向に沿ってPC板の隔壁を設けて排気ダクトと送気ダクトに分けていた。トンネル天頂部のコンクリートに打ち込んだ接着系アンカが、上部CT形鋼*4を介して、隔壁と天井板をつり下げる構造だった(図)

 設計当時の資料などによると、天井部の構造計算では、天井板に鉛直方向に作用する送気・排気の正負の風荷重は見込んでいたが、隔壁に掛かる水平方向の風荷重やそれによる曲げモーメントを考慮していなかったとみられる。

 
〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

天井部の構造イメージ
天井板と隔壁を下部CT形鋼で締結し、それを天井のコンクリートに打ち込んだ接着系アンカボルトが上部CT形鋼を介してつり下げる構造となっている。
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*1 見解の内容は2013年6月18日に報告書としてまとめられ、公開されている。

*2 接着系アンカボルト コンクリートに挿入したボルト部を接着剤で固着させるタイプのアンカボルト。

*3 プレストレスト・コンクリート あらかじめ圧縮荷重を与えたコンクリート材。引っ張り荷重によるひび割れが生じにくい。

*4 CT形鋼 H形鋼を半分に切断して造ったT字型の鋼材。