取材技術編:ローム/オムロン

ローム
電池不要、配線不要のセンサ技術

 「電池不要、配線不要、メンテナンス不要。こうした特徴を持つ『EnOcean』の無線通信技術は、インフラ管理やヘルスケアなどに関する各種データを取得するのに最適だ」。こう考える半導体メーカーのロームは、独EnOcean社の無線通信技術を利用して、ビッグデータの取得をビジネスに展開する。

 EnOcean社は、独Siemens社の出身者によって2001年に設立された、半導体を提供するファブレスのベンチャー企業。ベンチャー企業といえどもあなどるなかれ。EnOcean技術の開発を促進するための業界団体「EnOcean Alliance」は、全世界で300社以上の加盟企業から構成されている。日本企業の加盟社数も、村田製作所、オムロン、太陽誘電など約30社に達する。

25万棟以上に導入済み

 多くの企業がEnOcean技術の採用に動くのは、「センサ・ネットワーク向けとして、他の無線通信技術に比べて、明らかな優位性がある」〔ローム研究開発本部インキュベーションユニット(兼)デバイスソリューション研究開発ユニットユニットリーダー(副部長)の谷内光治氏〕からである。最大の優位性は、電池不要であること(図1)。EnOcean技術は、もともとセンサ・ネットワークに用途を特化して開発されたため、通信に必要なエネルギが、他の無線通信技術に比べてケタ違いに小さい。具体的には、ZigBeeの1/10以下、Bluetoothの1/100以下、WiFiの1/1000以下である。

 ただでさえエネルギが小さいことに加えて、EnOceanは他の無線通信技術にはない特徴を備える。エネルギ・ハーベスティング(環境発電)技術を利用している点である。動作、振動、温度、光などからつくり出したエネルギを無線通信に利用する。こうした理由から、EnOceanは電池不要を実現できるのだ。


〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●EnOcean製品の基本的な内部構成
図1●EnOcean製品の基本的な内部構成
エネルギ変換やセンサなどの機能を搭載する。無線センサ・モジュールに電池は必要ない。EnOceanAllianceによる講演資料から抜粋。ロームが提供。

オムロン
20m秒ごとにPLCからデータベースへ

 今後、工場のビッグデータ活用が本格化すれば、現場で処理しなければならないデータ量も爆発的に増えるだろう。そうした時代を見越して先手を打ってきたのがオムロンだ。同社が2013年4月に発売したプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)「Sysmac NJシリーズ データベース接続CPUユニット」は、従来のPLCと比べてはるかに大量のデータを扱えるのが特徴だ。具体的には、取得したデータを米Microsoft社のデータベース(DB)管理システム「Microsoft SQL Server」に直接送信できることが大きなポイントである(図3)。

データ量が跳ね上がる

 新型PLCの開発に当たり、オムロンは日本マイクロソフト(本社東京)と工場のビッグデータ活用に関する事業で提携している。ビッグデータを活用するには、取得技術と分析技術の両方が欠かせない。そこで、オムロンは取得技術、日本マイクロソフトは分析技術という各社の得意な分野で製品や技術を開発し、顧客にソリューションとして提供する形だ(日本マイクロソフトの分析技術は、p.46を参照)*4

 その提携による第1弾の製品が、このPLCである。新製品でデータの処理能力を大幅に高めたのは、これから工場で生み出されるデータが急速に増えるからだ。例えば、タクトタイムが100m秒、工程数が10のラインにおいて、製品の品質や設備の稼働履歴に関する主要データをロット単位(1ロットは10個体)で取得する場合、年間に蓄積されるデータ量は1.2Tバイトである。仮に、同じデータをロット単位ではなく個体単位で取得すると、データ量は12Tバイトに増える。さらに、ある工程でワークの状態などをカメラで撮影し、画像データを個体単位で管理すれば、データ量は3E(エクサ)バイトと異次元の領域に跳ね上がるという*5。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図3●PLCで取得したデータをデータベース(DB)に直接送信
図3●PLCで取得したデータをデータベース(DB)に直接送信
最速で20m秒ごとにデータを格納できる。従来のPLCは、DBとの間に中継機器を介することもあって数秒単位が限界だった。オムロンの資料を基に本誌が作成した。

*4 その後、富士通も提携に加わることを発表した。同社は、ビッグデータ活用のためのシステム構築などを担う。

*5 E(エクサ)は10の18乗を意味する接頭辞。Tは10の12乗で、その間にP(ペタ、10の15乗)がある。