活用事例編:マツダ/Intel社/アマダ/日産自動車

マツダ
圧倒的な性能を実現するべく
ワークごとに加工条件を最適化

 エンジン1 基につき約1 万種類─―。マツダが、ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」を製造する過程で管理しているデータの量だ(図1)。その中身は、加工量やサイクルタイムの他、加工面温度、工具の使用履歴など多岐にわたる。さらに、かつてはロット単位での大まかな管理だったが、現在はそれらのデータを個体(シリアル)単位で収集しているという点も大きく異なる。

 なぜ、同社はこれほどのデータを必要としているのか。それは、従来の延長線上にない圧倒的な性能を実現するためだ。SKYACTIV-Gの特徴は、ガソリンエンジンとしては非常に高い14という圧縮比によって熱効率や燃費などの性能を大幅に改善したことにある1)。だが、膨大なデータの活用を抜きにそうした成果は得られなかった。

 それでは、同社はデータをどのように活用しているのか。端的にいえば、個体単位での加工条件の最適化だ。具体的には、シリンダブロックやシリンダヘッドといった主要部品の機械加工ラインにおいて、ワークの状態(これから加工する部分の寸法など)に応じて個体ごとにリアルタイムで加工量などの加工条件を調整している。ワークの状態と過去の実績を照らし合わせることで、あらゆる個体に最適な加工条件を割り出せるからだ。それによって、最終的にエンジンとして組み上がった状態での性能のバラつきを抑えることが可能になり、圧縮比を高めて性能を引き上げることに成功したのである。

造りやすさに背を向ける

 こうした考え方は、製造業の常識とは逆を行くものだ。一般に、エンジンのような量産品では造りやすさが重視される。マツダも例外ではない。「もともと、製造部門は設計部門に造りやすい図面を要求してきた」(同社技術本部パワートレイン技術部エンジン技術グループマネージャーの佐崎幸司氏)。ここでの造りやすさとは、主に寸法などの基準値の公差が大きいということである。

 だが、SKYACTIV-Gの目標として掲げた14という圧縮比は、造りやすさのために公差を十分に確保するという従来の考え方では実現できないほど高いものだった。むしろ、各パラメータがなるべく基準値付近に収まるように造らなければならない。バラつきを抑えつつ高い目標を実現するには、ワークの状態に応じて個別に加工条件を最適化するという考え方に切り替える必要があった。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」
図1●ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」
性能面では、圧縮比を14とし、燃費や熱効率を大幅に改善したことが特徴。生産面では、排気量が1.3Lと同2.0Lのモデルを同じ生産ラインで造れるように標準化されている。

参考文献:1)高田ほか,「高効率エンジン」,『日経ものづくり』,2011年12月号,pp.32-61.

Intel社
生産設備の経時変化を適宜修正
定期メンテナンス廃止も視野に

 半導体世界最大手メーカーである米Intel社の全工場で現在生み出されるデータは、ログデータだけで毎時5Tバイトに上る。かつて、こうしたログデータは何か問題が起きた場合の備えとして蓄積されていただけだった。しかし、ここ数年は「コスト削減やラインのダウンタイム短縮に向けてビッグデータを活用する動きが進んでいる」〔インテル(本社東京)クラウド・コンピューティング事業本部インテリジェント・システムズ・グループ事業開発マネージャーの安齋尊顕氏〕。

定期メンテナンスが不要に

 例えば、マレーシアのペナン州にあるプロセッサ工場では、ロボットの制御にビッグデータを役立てている(図1)。具体的には、ロボットを利用して完成したプロセッサを検査用基板のソケットに載せる工程で、ロボットの動作をリアルタイムで監視することによって、不良品が発生したりラインが停止したりする事態を防いでいるのだ。

 プロセッサをソケットに載せる際には、プロセッサのピンがソケットの穴に入るように、ロボットを制御しなければならない。ピンと穴が少しでもズレた状態で載せようとすると、せっかく造ったプロセッサが故障する恐れがある。最悪の場合、ロボットにも不具合が生じてラインが止まってしまう。

 本来、ロボットは同じ動作を繰り返すように制御プログラムが組まれている。しかし、実際には時間の経過とともに意図した動作とのズレが出てくる。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●マレーシア・ペナン州にあるプロセッサ工場
図1●マレーシア・ペナン州にあるプロセッサ工場
Intel社の中でも早くからビッグデータの活用に取り組んでいた。

アマダ
機械を「止めない」サービス
壊れる前に駆け付けて直す

 アマダは2013年5月から、板金用工作機械(図1)を対象に、機械から取得したデータを用いた遠隔保守サービス「AMDAS」の提供を始めた*1。まずは、故障の予兆を検出することによって、機械が止まる前に部品交換や保守作業を先回りして実施することから始める。故障が起こってから直すよりも、機械の停止時間を大幅に短くできる。

サービスの在り方が変わる

 アマダはこれまで、ユーザーから故障の通知を受けたら、2日以内に補修して再稼働できるサービスを提供してきた。以前、板金部品がある程度の数をまとめて造るものだった時期には、このくらいの短期間で復旧できればまず十分と考えられていた。他の機械を動かして何とか生産を続けてしのいでいる間に、故障機を修理できたのだ。

 しかし、今は少数の設備で、少量の製品を顧客の求めるタイミングで納めなければならないため、「今夜機械が止まったら、明日出荷できなくなるという状況」(同社執行役員エンジニアリングサービス本部長の大貫正明氏)になっている。もはや、2日後に復旧するのでは遅いのだ。従って、アマダにとっても「サービスの在り方が変わってくる。そもそも機械が止まらないようにしなければならない」(同氏)。

 そこで、機械が止まる前に先回りする「ビフォアサービス化」(同氏)が必要になる。機械に取り付けたセンサなどからの信号をモニターしておき、「接点が1つチャタリングを起こしている。あと3日程度で機械が止まる」といった故障の兆候をつかむ。その段階でユーザーに連絡し、部品を持って訪問して、その場で修理してしまうのだ。


〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●アマダの板金用工作機械
図1●アマダの板金用工作機械
レーザ加工、成形、タップ、曲げ加工の機能を1台に集約した「LASBEND-AJ」(2013年5月発表)。

日産自動車
集めたデータをみんなで共有
クルマの使い勝手を向上

 電気自動車(EV)「リーフ」には通信専用端末「TCU(Telematics Communication Unit)」が装着されており、データを「日産カーウイングスデータセンター」に送信する*1。日産自動車は、このデータを活用して、ユーザーの利便性を向上させる取り組みを進めている。

 送信するデータは走行位置、速度、電池の残量、充電の履歴といったもの。以前は、これをユーザーであるドライバー自身にフィードバックするだけだった。しかしその後、多くのドライバーによる情報を集約した知見をドライバー間で共有、利用できるようにした。さらに、保険会社にデータを渡すことにより、付加価値の高い新たなサービスをドライバーに提供する試みも始めている。

「他の人はどう乗っているか」

 リーフではもともと、消費電力をドライバーにフィードバックする仕組みが充実している。走行履歴とともに平均の電費(単位消費電力当たりの走行距離)を表示できる他、EVに乗ることによって削減できたCO2の量を「エコツリー」の本数として表示し、より安全でエコロジー度の高い運転を促す。さらに、多くのドライバーからの情報を集約して、電費のランキング情報や、ドライバー全員でのエコツリーの合計本数などもフィードバックしている。

 ここからもう少し踏み込んで、2012年7月から提供を始めたのが「みんなの消費電力」というコンテンツだ(図1)。他のドライバーの実績値を基に、ある地点から別の地点、例えば神奈川県横浜市から同県箱根町に向かう場合の電力消費を最大値、最小値、平均値で示す。

 これは、ドライバー全員の走行履歴の中から、出発予定地点と到着予定地点がそれぞれ5km以内で一致するものを抽出し、提示するもの。途中の充電スタンドで充電した場合には、その情報も提供する。ドライバーはバッテリが持つかどうか、途中のどこで充電できるかが分かるため、長距離を移動するときでもそれほど不安を感じないで済む。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

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*1 日産自動車の情報サービス「カーウイングス」の契約者の場合。