「独創的な製品を生み出すためのイノベーティブ思考法」では、潜在的価値を発掘するための思考法・手法やそれを使いこなせる人材の育成法を取り上げます。社会人向け教育を手掛ける慶応義塾大学の教員が、実際の企業事例に沿って紹介していきます。

 本連載もいよいよ最終回です。これまでに多くの思考法・手法を紹介してきましたが、難しいものはほとんどなかったはずです。事例として取り上げたハマノパッケージ(本社兵庫県姫路市)もこれらの思考法・手法を粘り強く用いることで、既成概念にとらわれず、貼り箱の本質的な価値は「贈り主の感謝が相手に伝わり、その感謝を長く感じてもらう」ことであることに気付きました。

 今回は、その本質的な価値をコンセプトに落とし込み、さらにソリューション(製品)に展開する流れについて解説します。本連載で紹介した思考法・手法を用いて製品を開発すると、製品自体の造り込みよりも、それ以前の本質的な価値の追求に費やす労力の方がはるかに大きくなります。しかし、これこそがイノベーティブな製品を最小限の手戻りで開発するためのポイントになります。 最終段階では、これまでの検討内容を再確認するようにコンセプトやソリューションを作成します。説明の都合上、思考法・手法を順番に紹介してきましたが、これらの思考法・手法を行ったり来たりしながらプロセスを何度も繰り返すのが重要であることを念頭にお読みください。

欲求連鎖分析(WCA) 関係者の欲求を明確にする

 第4回では、本質的な価値を明らかにするのに「バリューラダー」という手法を用いました。それによって本質的な価値は分かってきましたが、その価値が正しく顧客まで届くことを確認する必要があります。そこで、第3回で解説した「顧客価値連鎖分析」(CVCA:Customer Value ChainAnalysis)という手法により、この段階での価値連鎖を可視化しました。
〔以下、日経ものづくり2013年6月号に掲載〕

富田欣和(とみた・よしかず)
慶応義塾大学大学院 非常勤講師
慶応義塾大学大学院SDM研究科でデザイン・プロジェクトや起業デザイン論、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。イノベーティブ・デザイン合同会社代表としてイノベーティブ思考によるソリューション開発支援を手掛けるなど、数社を経営している。実務に生かせる社会システムデザインやイノベーション・マネジメントの研究に取り組んでいる。同大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。

白坂成功(しらさか・せいこう)
慶応義塾大学大学院 准教授
慶応義塾大学大学院SDM研究科でシステムズ・エンジニアリングやデザイン・プロジェクトなどを担当。三菱電機にて15年間、宇宙開発に従事。「こうのとり」などの開発に参画。現在は、技術・社会融合システムのイノベーション研究に取り組む。2008年4月から同研究科非常勤准教授。2010年から同准教授。東京大学大学院修士課程修了(航空宇宙工学)、慶応義塾大学後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。