JR大阪駅から歩いて数分の27階建てビルの25階。ピカピカの一等地に、それはある。収納用品やペット用品といったプラスチック成形品などを開発・製造・販売するアイリスオーヤマ(本社仙台市)が、2013年2月に開設した研究開発拠点「大阪R&Dセンター」だ(図1)。同年5月に開かれた開所式の場で、同社代表取締役社長の大山健太郎氏は、7人の技術者たちに向けてこう辞令を発表した。「大阪R&Dセンターへの配属を命じます」。

 アイリスオーヤマは、本社も中央研究所も宮城県内に置く、東北地方を主な拠点とする企業。そんな同社が大阪に研究開発拠点を設置した理由、それは「大手電機メーカーを退職した中途技術者の獲得」である。

 2011年後半から2012年にかけて、パナソニックやシャープなどの大手電機メーカーが次々と人員削減を含むリストラを断行したことは記憶に新しい。大阪は、パナソニックやシャープが本社を構え、技術開発拠点も多く存在する。アイリスオーヤマはその大阪に研究開発拠点を設ければ、両社などから流出する優秀な人材を獲得しやすいと考えた。

 シャープなどが大規模なリストラ策を発表したのが2012年夏。それからのアイリスオーヤマの行動は速かった。「2012年10月中には大阪に研究開発拠点を構える経営判断を下した」(同社常務取締役研究開発本部長の大山繁生氏)という。そして、同年12月には大阪で会社説明会を開き、2013年5月現在までに約30人の中途技術者を採用した。採用は現在も続いている。

ヒットを生む中途技術者

 アイリスオーヤマが電機系の中途技術者の獲得にここまで躍起になるのはなぜか。

 狙いは白物家電を含むエレクトロニクス製品の開発力を飛躍的に高めることにある。

 アイリスオーヤマのここ最近の成長は目覚ましい。2008年度に761億円だった売上高は、2012年度に1100億円と、4年間で約1.5倍に拡大している。この急成長を支えるのが、新製品(発売から3年以内の製品)の売り上げである(図2)。

 特に2009年に新規参入した家電事業の成長が著しい。例えば、同年に販売を始めたLED電球「ECOHiLUX」は、当初こそOEM(相手先ブランドによる生産)製品だったものの、2010年に自社開発品を発売してから売り上げを急拡大させた。現在は電球だけではなくシーリングライトやペンライトなども開発し、2012年度のLED照明全体の売上高は240億円に達している。同社の同年度の総売上高が1100億円だから、実に2割以上をLED照明で稼ぎ出していることになる。

必要な機能を必要なだけ

 このLED照明をはじめとした家電事業で快進撃を続ける同社の製品開発の考え方とはどのようなものか。それは、「お客様(顧客)が欲しいモノをお値ごろに提供する」というものだ。

 顧客が欲しいモノとは、「必要な機能を必要なだけ(過不足なく)搭載したモノ」(常務の大山繁生氏)のこと。搭載機能が必要十分であれば、不要な機能も付いた製品に比べて格安に提供できる。日本市場に多く出回る多機能品と、差異化を図れるというわけだ。

 実際、この考え方に基づいて生み出された同社の新製品は、顧客に支持されている。例えば、ペットの毛を絡め取りながら吸い取る機能を搭載したサイクロン式掃除機や、100V電源への対応により設置工事を不要にした2口IH調理器などだ。前者は2012年9月、後者は同年11月に発売したが、いずれも人気のため現在は品薄の状態になっているという。
〔以下、日経ものづくり2013年6月号に掲載〕

図1●アイリスオーヤマは大手電機メーカー出身者を大量に採用して「大阪R&Dセンター」を新設した
図1●アイリスオーヤマは大手電機メーカー出身者を大量に採用して「大阪R&Dセンター」を新設した
アイリスオーヤマは、大手電機メーカー出身の技術者などを2013年に約30人採用し、そのうち約20人を新設の「大阪R&Dセンター」に配属した。写真は、2013年5月7日に実施した同センター開所式の様子。左から3番目が社長の大山健太郎氏。
図2●アイリスオーヤマの急成長を支えるのは次々に生み出される新製品
図2●アイリスオーヤマの急成長を支えるのは次々に生み出される新製品
2008年度に761億円だったアイリスオーヤマの売上高は2012年度には1100億円と約1.5倍に増えた。その成長を支えるのが新製品の売り上げだ。売上高全体に占める、3年以内に発売された新製品の割合は、41%(2008年度)から56%(2012年度)に増えた。中でもLED照明は、自社開発品を発売した2010年からわずか2年で240億円を売り上げるまでに成長したヒット商品。