EVの駆動力を制御する上での大きな課題が、ドライブシャフトなどのねじれ共振だ。東京大学准教授の藤本博志氏は、タイヤのスリップ率に着目してねじれ共振を抑える手法を提案する。その手法と長年研究してきたインホイールモータ(IWM)の制御技術を組み合わせ、一般的な減速機付きEVの運動性能を高める。

 IWMを電気自動車(EV)に採用すると、車両の安全性や運動性能を格段に高められる。筆者は長年、4輪を直接駆動するダイレクトドライブ(DD)式IWMを搭載するEVの制御技術を研究してきた。前後左右の車輪の駆動力を極めて速く制御できるので、モータを1個使う現状のEVと比べて安全性や効率を大きく高められることが分かっている。

 例えば車両のヨー方向の水平運動に加えて、ピッチ方向やロール方向の上下運動を安定させられる1)2)。さらに直進走行している時にモータの制駆動力を最適に配分することや、旋回している時に舵角を小さくするよう制御して走行抵抗を減らし、航続距離を延ばせる3)

 車両の動きを制御する上で利点が大きいDD式IWMだが、実用にこぎ着けるには課題が多い。少なくともモータが2個いるのでコストが高くなることに加えて、DD式は減速機がないのでトルクを高めると体積が大きくなりがちだ。現時点のモータの能力では16インチ以下のタイヤには搭載しにくい。

 そこで最近はDD式IWMの制御技術を高めることと合わせて、DD式IWMの研究成果を三菱自動車「i-MiEV」に代表されるモータ1個と減速機を組み合わせる「1モータEV」に適用する研究を進めている(図1)。

 モータの数が減る上、モータの力をタイヤに伝えるまでの間に減速機やデファレンシャルギア、ドライブシャフトがあるので制御性は落ちる。それでも、工夫を凝らせば現状の1モータEVと比べて安全性や運動性能を大きく高められそうなことが分かってきた。

以下、『日経Automotive Technology』2013年7月号に掲載
図1 IWM向けの制御
技術を1モータEVに適用
図1 IWM向けの制御技術を1モータEVに適用
「i-MiEV」を改造して実験する。

参考文献
1)藤本ほか,「 インホイールモータの高速な回生制動トルク応答を用いた電気自動車の制御」, 自動車技術会2009年春季学術講演会
2)勝山,「インホイールモータによる非連成3Dモーメント制御の開発」,自動車技術会春季大会,No.20115012, 2011年
3)藤本,「航続距離を延長する電気自動車の制御システム」,自動車技術,vol.66,no. 9,2012年