富士重工業が独自に開発した1モータHEVは、何かと重装備である。モータがあるのにトルコンも積む。同じくモータがあるのにISGも普通のスタータモータも積む。油ポンプは電動式と機械式の2個使い、しかも機械式はエンジンからも変速機からも回せる。できることをすべて投入した質の高い製品という評価もできる。その一方で、“過剰感”を感じてしまうことも確か。他社の基準では「両方積むのか。どちらかに統一できないか」と言われてもおかしくない。お互い似たようなHEVが乱立するHEVの成熟時代に、あえて人と違うことをする…富士重工業らしい行き方といえるのかもしれない。

 富士重工業は、1モータHEV(ハイブリッド車)「XV HYBRID」の技術を、初夏の発売に先立って公開した。自然吸気、排気量2.0Lの水平対向エンジンにモータを組み合わせた。モータの出力は10kW、最大トルクは60N・m、電池は84セルで100.8V。この数字を見ると、ホンダの「IMA(Honda Integrated Motor Assist System)に近い小規模なHEVシステムだ。IMAはモータの最大トルクが78N・mと違うが、出力も電池も同じだ。組み合わせるエンジンの排気量はIMAが1.5Lであるのに対しスバルは2.0Lだから、相対的にはIMAよりも小規模なハイブリッドシステムと言える。

 システムの考え方は走り志向だ。エンジンとモータを加えたトルクは1000rpm強から4000rpm強までずっと220N・m前後を保つ(図1)。エンジンの効率が低い領域をモータの駆動力で補う一般的なHEVの考え方ではなく、エンジン車にモータの駆動力を上乗せしてトルクを高める方針で設計した。「ターボチャージャの代わりにモータを搭載したと考えてもらいたい」(同社社長の吉永泰之氏)という。

 例えば40km/hからアクセルペダルを1/4踏んで追い越し加速を測ると、踏んで0.2秒後には加速が立ち上がり、0.5秒後には競合するHEVまたはSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の2倍の加速度が得られる(図2)。

比較対象の「P」「C」「A」が何かは明らかにしていない。HEVだとすれば、排気量が1.5~1.8Lの可能性が高いから、スバルの排気量が大きいことを割り引いて評価するべきだろうが、2倍は立派だ。

 モータが10kWしかないのに、どうしてこんなことができるのか。大きな理由は、トルクコンバータとモータを両方装備したことである。回転数ゼロから大きなトルクを出せるモータがあり、さらにトルクコンバータがストール領域でエンジンのトルクを増幅するのだから、低回転でのトルクは、当然大きい。

 従来、日本製の1モータHEVは、トルクコンバータがなかった。海外にはドイツDaimler社の「Mercedes BenzS400 Hybrid」、同Volkswagen社の「Touareg Hybrid」などトルコンを装備する例があるが、日本では、モータがあればトルクが十分なこと、トルコンによる損失を避けたいことを優先し、モータとトルコンの両方は装備していない。

 富士重工業が両方を装備した理由の一つは、もちろん走りを重視したことだ。ただし、“装備できる状況にあった”ことも忘れてはならない。XV HYBRIDのHEVシステムは縦置きチェーン式CVT(無段変速機)「リニアトロニック」を基本にし、変速機ケースの中にモータを入れた(図3)。土台になったのは2種類あるCVTのうちトルク容量が250N・mと小さい方。これにモータを取り付け、約10cm長くなった。

 スバルは生産台数が少ないこともあって車体周りの共通化が進んでいる。「レガシィ」と「インプレッサ」でフロアパネルの一部は共通だ。なお、車名には入っていないが、XV HYBRIDは「インプレッサ」の最上級グレードという位置付けで、車体はインプレッサである。 レガシィはトルク容量が400N・mの大きなCVTを積むからトンネルが大きい。小型のCVTが10cm伸びたとしても、床構造を大きく変えずに積めるのである。

これに対して横置きエンジンのHEVは空間がギリギリだから、トルコンとモータを両方置くのは無理だ。

トルコンとモータを両方積むことに対しては「冗長だ」という見方もあるだろう。確かに「回転数がゼロ、またはそれに極めて近い状況で大きなトルクを出す」という点で、両者の機能は重なる。

 ただし、冗長だから間違いだとは言えない。CVTとトルコンの組み合わせも考えてみれば冗長だが、完全に主流になっている。

以下、『日経Automotive Technology』2013年7月号に掲載
図1 トルク曲線
図1 トルク曲線
━━がエンジン+モータ、---がエンジンのみ。1000rpm強ではエンジンの半分のトルクをモータが発生する。
図2 加速度の推移
図2 加速度の推移
社内計測値
図3 CVT
図3 CVT
写真右側、オレンジ色のコードがあるエクステンションハウジングの中にモータがある。