「独創的な製品を生み出すためのイノベーティブ思考法」では、潜在的価値を発掘するための思考法・手法やそれを使いこなせる人材の育成法を取り上げます。社会人向け教育を手掛ける慶応義塾大学の教員が、実際の企業事例に沿って紹介していきます。

 第3回では、ハマノパッケージ(本社兵庫県姫路市)が自社の抱えている課題や目指す方向性を、ブレーンストーミングや親和図法、CVCA(Customer Value ChainAnalysis)といった手法によって明らかにしていく過程を紹介しました。ただし、その段階で導き出した結論は、あくまで過去の経験や机上の議論に基づいたものです。確かに、前出の手法によってアイデアを構造化・可視化することで、アイデアを簡単に解釈できるようになりました。しかし、現場の生の声を収集・分析しているわけではありません。

 そこで今回は、第3回で得られた結論を基に、現場の生の声を拾い上げることで本質的価値を見いだす方法について解説します。ここでは、何度も思考を繰り返すことで正しい課題を設定していくプロセスを追体験していただきたいと思います。誌面では思考法・手法を順番に紹介していく関係上、実際もその順番に沿って使っているように見えますが、現実には複数の思考法・手法を何度も行ったり来たりしながら進めています。今回も、事例で登場する思考法・手法の一般的な解説を本誌pp.80-81の別掲記事として掲載しました。

フィールドワーク 現場で最終消費者を観察

 ハマノパッケージは、ブレーンストーミングや親和図法、CVCAによる社内の検討結果をいったん脇に置き、現場での「フィールドワーク」を実施することにしました。ここでいう現場とは、ハマノパッケージにとって直接の顧客である菓子メーカーなどではなく、菓子メーカーの顧客である最終消費者の振る舞いを観察できる場所です。

 フィールドワークを行う場所の候補は「自社製品(この場合は貼り箱)が使われている場所」や「価値が交換されている場所」などがありますが、今回は最終消費者をすぐ近くで観察することを優先しました。そこで、全社員を2つのチームに分けて地元の百貨店に向かいました。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕

富田欣和(とみた・よしかず)
慶応義塾大学大学院 非常勤講師
慶応義塾大学大学院SDM研究科でデザイン・プロジェクトや起業デザイン論、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。イノベーティブ・デザイン合同会社代表としてイノベーティブ思考によるソリューション開発支援を手掛けるなど、数社を経営している。実務に生かせる社会システムデザインやイノベーション・マネジメントの研究に取り組んでいる。同大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。

石橋金徳(いしばし・かねのり)
慶応義塾大学大学院 特任助教
慶応義塾大学大学院SDM研究科でシステムズ・エンジニアリング、デザイン・プロジェクト、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。本田技術研究所で2輪エンジン設計やパーソナルEV研究開発、東京大学で超小型人工衛星研究開発に従事。現在はシステムズ・エンジニアリングの応用研究に取り組む。米University of Minnesota卒業(機械工学)、慶応大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。