タッチパネルで操作するタブレット端末が普及する一方で、キーボードを使って文字などを入力できるノートPCへのニーズも依然根強い。
1台の機械で、時と場合によって両者を使い分けられたら…。
こんなわがままなニーズを実現するのが、ハイブリッド型のノートPCだ。
タブレット型になったりノート型になったりと、自在に姿を変える。
その変形機構には、PCメーカー各社のアイデアが満載されている。

 通常、ノートパソコン(以下、ノートPC)は畳んだ状態ではディスプレイが内側、つまりキーボードと向き合った状態にある。それ故、ノートPCを開くと、手元にキーボードが、目の前にディスプレイが現れ、さまざまな操作が可能になる。

 ところが、だ。タブレット端末としてもノートPCとしても使えるソニーの「VAIO Duo 11」と東芝の「dynabook R822」では、折りたたんだ状態でディスプレイ面が外側、すなわち上を向いている。まさにタブレット端末である。

 しかし、従来と同じように手前側を持ち上げて開けばディスプレイは向こう側を向いてしまうはず。これまでの常識で考えれば、ノートPCとしては使えない。一体、どうなっているのか。実は、ディスプレイをスライドさせるように動かすことで、タブレット型からノート型へとスムーズに変形するのである。

 タブレット端末とノートPCの両用を目的としたハイブリッド型*1と呼ばれるノートPCの変形方式はいろいろあるが、両社はスライド式にこだわった。その理由は、「タブレット型からノート型への変形のしやすさ」(両社)にある。時にタブレット端末、時にノートPCと、利用場面に応じて即座に切り替えられる手軽さを追求した結果がスライド式の採用だった。

【ソニー】5節リンク機構

 まず、VAIO duo 11がタブレット型からノート型へ変形していく動きを見てみよう。キーボード側の本体部とディスプレイ部が重なった状態(タブレット型)から〔図1(a)〕、ディスプレイ上側の端を指で持ち上げると、ディスプレイが手前を向くように徐々に起き上がりながら後ろへと移動していく〔図1(b)〕。この動きに伴い、キーボードが現れてくる。

 そして、移動が完了するとディスプレイが斜め上を向いた状態となり、キーボードを使えるノートPC へと姿を変える〔図1(c)〕。同社はこれを「Surf Slider方式」と名付けた。

リンクの軸をスライドさせる

 この動きを簡単に実現しようとしたら、ディスプレイ部の前端(下端)が本体部の表面に沿って動くように支持する直動案内と、ディスプレイ部の背面中央と本体部の後端を結ぶリンクを設ければよい〔図2(a)〕。ところが、「キーボードの両脇に直動案内を置くと、ユーザーの手が当たるというデメリットがあり、デザイン面でも許容できなかった」(ソニーVAIO&Mobile事業本部企画1部Hardware企画1課の伊藤好文氏)

 そこで同社は、ディスプレイ背面に2本のリンクを配置し、ディスプレイ部と本体部との間で4節のリンク機構を構成する方式に目を付けた〔図2(b)〕*2。こうすれば、ノート型への変形完了後も、機構部は全てディスプレイの後ろに隠されるから、デザイン面の問題はない。

 このリンク機構の設計で特にこだわったのが「ディスプレイの下端が、キーボード上をすれすれに動いていくように動かすこと」(ソニーVAIO&Mobile事業本部VAIO第1事業部設計1部3課メカニカルエンジニアの木村泰典氏)だった。各リンクの長さ、軸の位置によってディスプレイ部が描く軌跡(傾きや高さ)は変わってくる。タブレット型での重なった状態、ノート型でのディスプレイが傾いた状態、リンクの軸を設置できるスペース、さらにディスプレイ下端の軌跡─を制約条件に、最適な組み合わせを探索した。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕

図1●「VAIO Duo 11」の変形
図1●「VAIO Duo 11」の変形
ディスプレイ部がスライドしながら起き上っていくようにして、タブレット型からノート型へと変形する。
図2●スライド機構の検討
図2●スライド機構の検討
(a)直動案内によってディスプレイの下端を支持する方法では、キーボードの左右に凹凸ができてしまうためユーザーの使い勝手が悪く、デザイン面でも好ましくない。(b)2本のリンクによってディスプレイを支える機構とすれば、ノート型にした際に変形機構を全てディスプレイの裏側に隠せる。

*1:コンバーチブル型とも呼ばれる。

*2:リンク1本ではディスプレイの角度を制御できないため、2本のリンクでディスプレイ部と本体部を接続する。