日経ものづくりが進める、日本の工場を応援する特別プロジェクト「シリーズ・強い工場」。2013年1月号の特集「12人の鋼の工場長」に続く第2弾となる本特集では、個性的な建物・施設を備える「最先端工場」に着目した。海外生産の比重が高まる中、存在意義が問われる国内工場。圧倒的な価値(V)やスピード(S)を実現する手段として、建物・施設の重要性が増している。これまでの常識を覆す建物・施設と、それを使いこなす現場に迫った。(「強い工場」取材班)

総論:国内工場の生き残りに向けて 総論尖った建物・施設が不可欠に

 2011年3月の東日本大震災で全ての製造棟が損壊し、新設を余儀なくされた三菱電機の郡山工場。2012年6月に竣工した新しい製造棟の稼働が始まって以降、見学に訪れる他社の工場関係者が後を絶たない。郡山工場は、三菱電機の中でもトップレベルの環境配慮型工場として生まれ変わったからだ(図)。

 震災直後、同工場の従業員は「このまま工場がなくなってしまうのではないか」という不安を感じていた。同工場の主な生産品目はセキュリティーや防災などの用途に使われるネットワークカメラおよびレコーダで、今後需要の拡大が見込める。三菱電機は、程なく製造棟の新設を決定した。

 ただし、単に同じような製造棟を建て直したわけではない。屋根一面に敷き詰めた太陽光パネルによる発電や、断熱性の高い建物構造による空調効率の改善といった最先端の環境技術を取り入れることで、震災前の製造棟に比べてエネルギ消費量や二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減した。「震災からの再興ということもあり、圧倒的な環境性能を誇る工場にしたかった」と、製造棟の新設プロジェクトを主導した三菱電機コミュニケーション・ネットワーク製作所副所長の奥田博志氏は語る。

圧倒的なVとSを実現

 三菱電機の郡山工場の事例は、国内の工場が今後目指すべき方向の1つを示唆している。本誌は、2012年10月号特集「国内で造る」において、飛び抜けた価値(V)とスピード(S)こそが国内で造ることの意義であると述べた1)。三菱電機の郡山工場は、環境性能というVを徹底的に高めた工場といえる。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕

図●三菱電機郡山工場の新製造棟
図●三菱電機郡山工場の新製造棟
2012年6月に竣工し、稼働を始めた。 写真:三菱電機

参考文献:1)近岡ほか,「国内で造る」,『日経ものづくり』,2012年10月号,pp.28-49.