事例1:コベルコ建機 五日市工場
V(品質)、S(納期短縮)を追求する
徹底した粉じん対策で最高品質
社内検査での不具合件数が1/50
ひさしが長く突き出した工場の荷受け場に〔図1(a)〕、部品を積んだ1台のトラックが到着した。ガルウイングタイプの荷台のドアが開き、フォークリフトが荷台から部品を運び出す。だが、荷受け場のシャッタは閉まったままだ。フォークリフトがシャッタに近づくと、ようやくシャッタが上昇し、工場内の荷受け場が顔を出す〔図1(b)〕。フォークリフトはシャッタをくぐって荷受け場に部品を置くと、後進して再び外へ出る。すると、直ちにシャッタが下降して閉まってしまう〔図1(c)〕―─。
建設機械メーカーのコベルコ建機(本社東京)が、約200億円を投じて広島市に造った五日市工場でのひとコマだ。2012年5月から本格稼働を開始した新工場で、車両重量7~95tクラスの油圧ショベルを造る。
通常、建機や自動車、工作機械といった中~大型の機械製品を造る工場では、荷受け場のシャッタを頻繁に開閉することはしない。基本的に工場が稼働中は開け放し、どんどん部品を積んでいく。ところが、コベルコ建機の五日市工場では、フォークリフトにスイッチを設置し、運転者が部品を搬送するたびにシャッタを開閉する。うっかり忘れてシャッタを開け放したまま搬送作業をしていようものなら、管理者から厳しい叱責の声が飛ぶ。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕
事例2:サイベックコーポレーション 地下工場
V(品質)を追求する
地下11mで金型を超精密加工
低振動・恒温の究極環境を追求
「国内で工場が生き残るためには、最先端の技術を追求し続ける必要がある。我々の答えは、地下工場による究極の加工環境の実現だ」。自動車部品などを提供するサイベックコーポレーション(長野県塩尻市)で代表取締役社長を務める平林巧造氏は、地下11mの金型加工用新工場を構築した思いをこう語る。同工場は2012年夏に完成し、2012年9月に稼働を開始している(図1)。
サイベックコーポレーションの地下工場は、長野県塩尻市の本社工場に隣接する場所に、約1万5000m2の土地を新たに購入し、その中に建設したもの。約7500m2の生産ライン棟(地上)とともに、約2500m2の金型加工用地下工場がある(図2)。建設費用はおよそ18億円。年間売上高が約20億円の同社にとっては大勝負といえる。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕
事例3:コマツ 大阪工場
V(品質)、S(開発期間短縮)を追求する
工場に実物大の建機映像が出現
熟練者の視点を試作前に反映
3次元(3D)の仮想空間に入り込んで、目の前にある実物大の建機モデルを見ながら、組み立てやすさ(実装性)などを試作前にチェックする―─。工場に併設された開発センター内でこうした手法を導入し、製品の品質向上や開発期間短縮を目指しているのがコマツである。
同社は、各主要工場にそれぞれ製品開発部門を抱えている。工場と製品開発部門の距離が近いため、工場と密な連携を取りながらの製品開発が可能となっている。
その製品開発部門に導入されているのが、大きな建機を実物大でかつ立体視できる大型バーチャル・リアリティ・システム「4面VRシステム」だ。開発中の建機の3Dモデルを大きなスクリーンに立体視投影し、ポンプやエンジンといった機器の組み付けやすさ、点検・整備性や修理のしやすさ、運転席からの視認性・安全性などを検証する。生産現場や保守現場の視点を早期に作り込めるので、設計品質の向上や開発期間の短縮に寄与する。工場でのスムーズな量産立ち上げも期待できそうだ。
4面VRシステムは、2011年5月に主にクローラ(無限軌道)式の大型建機を製造している大阪工場(大阪府枚方市)に導入された(図1)。実際、「試作車ができてからの大幅な手戻りが減った」(同社開発本部建機第一開発センター部長の高田徹氏)。従来、実装性や整備性、操作性などは、試作車がないと評価仕切れなかったが、同システムを活用することで設計での前倒しの検討が可能になったからだ。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕
事例4:三菱電機 郡山工場
V(環境性能)を追求する
最新オフィスビル級の断熱性と太陽光発電でCO2を25%削減
JRの郡山駅から国道4号線に出て1kmほど南下すると、三菱電機郡山工場の真新しい製造棟が目に飛び込んでくる。ネットワークカメラやレコーダを生産している平屋建ての製造棟は、一見すると何の変哲もないが、実は太陽光発電と断熱性向上によって二酸化炭素(CO2)排出量を従来比で25%削減した最先端の環境性能を誇る工場だ(図1)。
同工場は、2011年3月の東日本大震災で大きな被害を受けた。4つあった製造棟は全て損壊し、1カ月以上にわたり操業停止を余儀なくされた。その後、損壊を免れた食堂に生産設備を持ち込んで操業再開にこぎ着けたものの、このような非常時体制をいつまでも続けられるわけではない。そこで同社は、製造棟の建て直しに踏み切った。
新製造棟には、従来の4つの製造棟の機能(生産品目や生産能力)を集約した。2012年6月に竣工し、同月から稼働している。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕
事例5:オムロン 綾部工場
V(環境性能)を追求する
センサ158台で工程を定量管理
品質と生産性を下げずに省エネ
計158台ものセンサを工場内のさまざまな箇所に設置し、装置や工程ごとに消費電力量のデータ(以下、電力データ)と、稼働状況や外乱などで微妙に変化する環境データ、具体的には粉じん量や温度、湿度、空気の流量といった物理量を24時間休みなく計測する(図1)。そして、これらのデータを基に、品質や生産性を落とさずに緻密な省エネ制御を実行する。それが、京都府綾部市にある、オムロンの綾部工場だ。
同工場は典型的な多品種少量生産工場で、2万8000種類のFA用センサを年間1億個造っている(図2)。付加価値の高いセンサの生産を担う、同社が誇るマザー工場だ。生産技術はもちろん、省エネでも世界の工場の先頭を行くことが必然的に求められている。
2011年3月の東日本大震災後に深刻化した電力不足問題を受けて、日本メーカーでは省エネ活動が加速した。だが、多くはオフィスの空調温度や照明などを調整する程度にとどまっている。要は、社員にある程度我慢を強いるものの、比較的簡単にできる節電だ。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕
事例6:大和ハウス工業 奈良工場第一工場
V(環境性能、顧客対応力)を追求する
環境モデル工場で工場を売る
実地データで効果を裏付け
2013年12月の稼働を目指して建て替え工事が進んでいる大和ハウス工業の奈良工場第一工場は、省エネルギと、自然エネルギの徹底活用にこだわる世代環境工場を目指している(図1)。太陽電池だけでも、全量売電を目指すメガソーラー(大規模太陽光発電)事業向けや、太陽を自動追尾する最新タイプ、リチウム(Li)イオン2次電池と組み合わせたタイプなど3種類を設置する。
空調でも、「気化熱を利用した涼風装置」や、人が活動する高さ2m以下のスペースのみを空調する「置換空調」、冬場の乾燥を抑える「デシカント空調」に加え、自然の風を利用する「風の道」、熱を遮断して空調の負担を抑えながら自然光を利用して照明の消費電力を抑える「越屋根」などを導入する計画。いわば環境関連設備をフル装備した工場である。
同社がここまで徹底するのは、工場を丸ごとショールームにしようと考えているからだ。それも工場を売るためのショールームである。
〔以下、日経ものづくり2013年5月号に掲載〕