2013年4月号から「『つなげない』を『つなぐ』 最新接合技術の可能性」をお届けします。専門の技術者・研究者が、従来は難しいとされていた接合を実現する最新技術のメカニズム、既存技術の新たな応用展開の広がりについて解説します。

複層ワイヤや3重トーチで溶融域の挙動を制御

 構造物を造るためには、材料をつなぐ技術が必要となる。構造物には当然、安全・安心が求められるため、その性能要求に応えられる最適な接合方法を選ばなければならない。つなぐ技術にはさまざまあるが、自動車、鉄道車両、船舶、橋梁、建築といった大型の構造物の場合には、多くのケースで溶接・接合技術が使われる。

 本連載では最新の溶接・接合技術を紹介する。同技術は古くからある要素技術だが、日々進歩を遂げており、従来の「つなげない」が今では「つなげる」ケースが増えてきた。

 第1回は、最も一般的に普及しているアーク溶接を取り上げる。今回の、従来の「つなげない」は、MIG(Metal Inert Gas)溶接による厚板鋼板。これを実現する純アルゴン(Ar)ガスでシールドしながら溶接してつなげる新しい技術「クリーンMIG溶接」について解説する。

 実は、最近まで酸素や炭酸ガスを微量(2~5%)だけ混合する場合も、MIG溶接と分類されていた。そこで、筆者らはそれと厳密に区別するため、鋼板に適用する純Arのガスシールド溶接をクリーンMIG溶接と呼んでいる。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

平岡和雄(ひらおか・かずお)
大阪大学客員教授
1973年大阪大学大学院工学研究科修士課程修了、1997年博士(工学)(大阪大学)取得。金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)を経て、2009年より現職。専門はアーク物理学、特にアークの分光解析ならびにアーク溶接プロセス開発シミュレータ開発。NEDOプロジェクト「鉄鋼材料の革新的高強度・高機能化基盤研究開発」の溶接技術サブグループでリーダーを担当する。

中村照美(なかむら・てるみ)
物質・材料研究機構 主幹研究員
1988年に大阪大学大学院工学研究科前期課程修了、2002年に博士(工学)(大阪大学)取得。1988年に石川島播磨重工業入社、1997年に金属材料技術研究所(現物質・材料研究機構)に入所し現在に至る。専門はアークプロセス開発。アーク溶接プロセス開発シミュレータ、同軸複層ワイヤを開発。NEDOのプロジェクト「鉄鋼材料の革新的高強度・高機能化基盤研究開発」においてクリーンMIG溶接を担当。