2013年1~4月号では、設計の変更点/変化点に着目することで迅速かつ簡便に実施できるQuick DRを解説した「Quick DRを始めよう」をお届けしました。2013年5月号からは、知っているようで知らない電気・電子機器設計の基礎知識を解説する「機械設計者のためのエレ入門」を始めます。

設計者の能力を最大限に引き出す

 前回(2013年3月号)は、QuickDRの実施手順を日産自動車(以下、日産)における適用事例とともに紹介した。最終回となる今回は、QuickDRだけではなく、新規性が高い設計に適用するFull Process DRも含めて、製品の不具合やユーザーの不満を未然防止する上で不可欠なレビューアの役割について解説する。

レビューアに必要な能力

 有効なデザインレビューを実現するため、日産ではQui ck DRの導入とともに、デザインレビューにおけるレビューアの役割を見直し、それに必要なスキルの教育を開始した。デザインレビューで効率的に問題点を発見し、不具合などの未然防止を図るためにはエキスパートの知見、経験、洞察力が不可欠だからだ。

 しかし、実際の設計現場を観察すると多くの設計者はデザインレビューに対して、「実施すれば有効だがやるのは大変だ」、「時間をかけて準備をしたあげく、レビューアにやっていないことを怒られて、たくさん宿題をもらった」というイメージを持っていた(図1)。それが「これは大して新規性が高くないから手を挙げるのをやめよう」というマイナスの考えへとつながる。その結果、デザインレビューを実施しないままに設計を進めてしまい、問題が発生していた。

 設計者が喜んでデザインレビューに参加できるようにするためには、Quick DRという仕組みの導入だけではなく、そこに参加するレビューアの役割を見直すことも重要だ。問題を指摘し指示する役割だけではなく、デザインレビューに参加する設計者を助け、育成する役割を新たに追加しながら、レビューアに必要な能力を以下のように再定義した。
[1]問題点を見つけ出して解決する専門技術力、経験、洞察力を持つ
[2]デザインレビューのプロセスとツールを熟知する
[3]デザインレビューを受審する設計者の積極性を高め、育成するコーチング能力を有す
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

図1●デザインレビューのイメージ
図1●デザインレビューのイメージ
多くのデザインレビュー参加者が抱いていたデザインレビューのイメージである。レビューアは製品の問題を指摘しているつもりであっても、設計者はあたかも自分が叱責されているように感じることがある。まして、やっていないことを責められ、挙句の果てに多くの宿題をもらうと、次からは参加したくないと思うようになる。

大島 恵(おおしま・めぐむ)
ボッシュ シニア・ゼネラル・マネージャー
1976年日産自動車入社。主に強度信頼性設計、実験、振動騒音開発に従事。2005年から車両品質推進部部長、品質エキスパトリーダー。設計品質の向上活動に取り組み、日産自動車独自の品質手法を開発し、日産自動車および関連会社に展開して実践する。2012年から現職となり、設計品質の向上を指導。

奈良 敢也(なら・かんや)
日産自動車 車両品質推進部 主管
1987年日産自動車入社。主として、品質、信頼性向上、安全部品設計に従事。2006年からは慶応義塾大学理工学部 非常勤講師( 品質工学、実験計画法)、2009年から車両品質推進部主管。