「独創的な製品を生み出すためのイノベーティブ思考法」では、潜在的価値を発掘するための思考法・手法やそれを使いこなせる人材の育成法を取り上げます。社会人向け教育を手掛ける慶応義塾大学の教員が、実際の企業事例に沿って紹介していきます。

 前回は、中小紙器メーカーのハマノパッケージ(本社兵庫県姫路市)がさまざまな思考法・手法を利用して「折り紙のような立体感のある箱」という斬新なコンセプトの製品を開発するまでの過程を紹介しました。今回から、それらの思考法・手法を実践する上での要点について、同社の事例に沿って説明していきます。

 このように一歩引いたメタレベルの視点での事例分析は、イノベーションに不可欠です。他社の成功事例と同じように行動しても、前提条件が異なる以上、自社も成功できるとは限りません。「良い答えをどのように導き出すのか」ではなく、「良い答えを導き出すための考え方をどのように確立するのか」という視点を持つことで、幅広い課題に対して柔軟に対応できるようになります*1。いわば「メタレベルの思考OS」が重要です。

 以下では、こうした問題意識に基づいてハマノパッケージの事例を分析します。さらに、本誌pp.86-87の別掲記事では同社が利用した思考法・手法の一般的な解説を行います。

ブレーンストーミング
「質より量」の姿勢で臨む

 「折り紙のような立体感のある箱」というコンセプトに到達する過程では、たくさんのアイデアが検討されています。そうしたアイデアが求められる局面で、ハマノパッケージは代表的な発想法の1つである「ブレーンストーミング」を使いました。

 ブレーンストーミングで「アイデアを出して」と言われてすぐにアイデアを出せる人は、そういません。従って、ブレーンストーミングを導入してもなかなかアイデアが出ず、途中で断念する企業が少なくありません。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

*1:筆者らは最近、北米と北欧でイノベーションの教育・実践に関する最前線の現場を視察し、関係者と議論しました。そこでは、イノベーションが生まれやすい場や組織をつくるには考え方を転換しなければならないという見解で一致しました。複数の専門家が知識や経験を補い合う従来の枠組みを超えて、共通の思考基盤から新しい価値を生み出す必要があります。「良い答えを導く考え方をどう確立するのか」という視点は、そうした思考基盤になり得ます。

富田欣和(とみた・よしかず)
慶応義塾大学大学院 非常勤講師
慶応義塾大学大学院SDM研究科でデザイン・プロジェクトや起業デザイン論、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。イノベーティブ・デザイン合同会社代表としてイノベーティブ思考によるソリューション開発支援を手掛けるなど、数社を経営している。実務に生かせる社会システムデザインやイノベーション・マネジメントの研究に取り組んでいる。同大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。

石橋金徳(いしばし・かねのり)
慶応義塾大学大学院 特任助教
慶応義塾大学大学院SDM研究科でシステムズ・エンジニアリング、デザイン・プロジェクト、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。本田技術研究所で2輪エンジン設計やパーソナルEV研究開発、東京大学で超小型人工衛星研究開発に従事。現在はシステムズ・エンジニアリングの応用研究に取り組む。米University of Minnesota卒業(機械工学)、慶応大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。