事例1:ディスコ●レーザソー
「切る」視点で事業領域を拡大
東京・大田区にあるディスコの本社は、ある意味で最先端の半導体が常に集結している場といえるかもしれない。半導体ウエハーの加工装置を手掛ける同社には、半導体メーカーなどから新しいデバイスの「テストカット」の依頼がひっきりなしに押し寄せる(図1)。新しいデバイスを設計したら、まずディスコに加工の相談を持ち込むというのが相場になっているのだ。
同社は、半導体ウエハーの加工装置の分野で盤石の地位を築いてきた。ウエハーを刃物で切断するダイシングソー、研削するグラインダ、そして研磨するポリッシャの3分野において同社の世界シェアはそれぞれ約70%に達する。
その同社で新たな事業の柱になりつつあるのが、ウエハーをレーザ光のエネルギで切断したり内部改質したりするレーザソーだ(図2)。レーザソーは、半導体の低誘電率膜(low-k膜)のようなもろい材料やLEDのサファイア基板のような硬い材料など、ダイシングソーでは対応が難しい材料に適用できることから、急速に需要が増えている*。そうした最先端のニーズをいち早く取り込むことで、ディスコはレーザソーの分野でも約70%と圧倒的な世界シェアを確保しつつある。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕
*:low-k膜材料の例としては、多孔質シリカ(SiO2)などがある。
事例2:東北電子産業●極微弱発光測定装置
論文が光子測定を産業用途へ
東北電子産業(本社仙台市)は、ユニークな道筋で鉄壁のサイクルを手に入れた。同社が手掛けるのは非常に弱い光を計測する「ケミルミネッセンスアナライザー」(図1)。光子50個程度の発光を検出できる超高感度が売りだ。光子50個とは、ホタルの光の約1/1万に相当する。
同社は1980年に1号機を造り、それ以来、樹脂や塗料、化粧品、薬品、生化学、基礎医学、油や食品といった広範な分野で、同装置を600台近く販売している。「光子を捉える超高感度の測定分野ではシェア100%に近い」と同社代表取締役社長の山田理恵氏は話す。他社にできない微弱な光を捉えるという技術を基本とし、その利用分野を広げていくのが同社の基本戦略だ。
実は、微弱な光を測定することで有機物の酸化状態が分かる。先に挙げた分野の共通点は、扱う対象が有機物で、酸化が品質や耐久性を下げる大きな要因となることだ。しかし開発当初、同社はそこまで思い至らなかった。「何に使えるのだろうか」。同社は自社の技術に対してニーズをつかみきれていなかったのだ。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕
事例3:エスペック●環境試験器
モジュール化で多品種・短納
開発拠点や工場などの「試験室」と呼ばれる部屋に行くと、かなりの確率でエスペックの環境試験器を目にする(図1)。それもそのはず、この分野における同社のシェアは国内で約60%、世界で約30%と、いずれもトップだ。
環境試験器は、機器・部品の耐久性試験や寿命試験など各種試験を実施するための環境をつくり出す装置である。ただし、環境試験器という製品が実際に存在するわけではなく、恒温恒湿器や加速寿命試験装置といった製品群の総称を指す。
エスペックが多くの顧客から信頼を得ている理由は、製品自体の性能もさることながら、顧客のさまざまな要求を受けてからその要求に対応した製品を納品するまでの期間の短さにある。競合他社をしのぐ短納期のカギは、設計のモジュール化だ。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕
事例4:アクアパス●連続式水洗浄機
ワークに応じてプロセスを選択
洗浄は、製造業の多くの現場で欠かせないプロセスだ。「何を、どの程度の清浄度に洗うか」によって、最適なプロセスが異なってくる。多様なニーズに対して、さまざまな機種と溶剤/洗浄剤が開発されている。そんな中、独特の構造を備え、独自の機構を搭載した洗浄機「アクアパス」で、有機溶剤や水系洗浄剤を一切使わない水洗浄(超音波洗浄)の適用範囲を広げている洗浄機メーカーがある(図1)。焼き物で有名な佐賀県は有田町にあるアクアパス社だ。
例えば、「高度な清浄度が求められる、めっきで回路を形成した後のプリント基板に対する水洗浄の適用ではアクアパスが先行してきた」と、同社常務取締役統括本部長の木寺広幸氏は胸を張る。特に、指紋やパーティクル(微小異物)の除去効果が高いという。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕
事例5:日精エー・エス・ビー機械●PETボトル成形機
成形できるまで面倒を見る
長野県小諸市の郊外に本社を構える日精エー・エス・ビー機械(日精ASB機械)の事務棟に一歩入ると、真っ先にさまざまな形や色のボトルが目に飛び込んでくる。同社はポリエチレン・テレフタレート製ボトル(PETボトル)の成形機メーカーだが、同社を訪れた顧客が最初に足を踏み入れる事務棟の展示スペースの主役はあくまでPETボトルだ。成形機の姿は、影も形も見当たらない。
その狙いは、「実際に成形できるPETボトルのイメージを顧客に一目でつかんでもらう」(同社取締役技術部長の荻原修一氏)ことにある。そもそも、顧客が最終的に欲しいのは、成形機ではなくPETボトルだ。同社は、顧客が欲しいPETボトルを成形できるようになるまで支援するという方針で顧客の信頼を得てきた。成形機メーカーでありながらPETボトルだけを並べた展示スペースは、この方針を体現したものだ。
不況でも利益率10%
PETボトルが世界で使われ始めたのは、1970年代である。日精樹脂工業から独立する形で1978年に創設された日精ASB機械は、PETボトルの需要拡大とともに業績を伸ばしてきた。PETボトル成形機は大まかに1ステップ式と2ステップ式の2種類があり、同社は1ステップ式で約70%の世界シェアを持つ(図1)。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕
事例6:堀場製作所●エンジン排ガス測定装置
評価ニーズの本質を見抜く
堀場製作所が世界で80%のシェアを握る排ガス測定装置は、顧客とともに未踏の領域を切り開いてきた典型例である。国内外の自動車メーカーの開発の最前線において、装置メーカーとしての専門知識を生かし、顧客の課題解決に大きく貢献した。
排ガス測定装置は2つの大きな技術革新を経て発展してきた(図1)。最初は黎明期の1960年代前半。まだエンジンの排ガス測定方法が確立していなかった時期だ。ここでは排ガスのハンドリング技術の構築がカギとなった。
そして2回目は、3元触媒が登場した1970年代後半である。それ以降、排ガス測定の意味が根底から変わった。詳しくは後述するが、それまで規制対応のためだった排ガス測定が、良いエンジンを開発するために必須のプロセスになったのである。測定回数は桁違いに増えたので、その結果を効率よく分析する、システムとしてのデータ処理能力が求められた。今なおその真っ只中にある。堀場製作所は、常に顧客の近くにいることで、この技術革新の大波をいち早くつかんだのだ。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕