日本には、圧倒的な競争力を誇る装置メーカーが多数ある。その中には、市場を独占している企業も少なくない。顧客の立場からすれば、自社で使う装置の市場が独占/寡占されている状況は、望ましいことばかりではないはずだ。それでも、世界中の顧客がその装置メーカーの製品に満足する。日本の装置メーカーはなぜ強いのか。その秘密は、「鉄壁のサイクル」(本誌pp.42-43参照)にあった。(高野 敦、高田憲一)

総論:顧客の信頼を勝ち取るべく「鉄壁のサイクル」を構築

 欧米の一流企業を顧客に持ち、中国に工場を構え、日本の装置を惜しみなく使う─ 。これは、世界最大のEMS(電子機器受託生産サービス)企業である台湾HonHai Precision Industry社(通称Foxconn)が自社の特徴として訴求している内容だ1)。米Apple社の「iPhone」など生産量の多い製品を取り込むことで急速に成長してきたFoxconnにとって、生産能力や信頼性などに優れる日本の装置は欠かせない存在だったことがうかがえる。

真っ先に依頼が持ち込まれる

 かつて圧倒的な競争力で世界を席巻した日本の製造業だが、昨今はその地位が脅かされつつある。電機業界におけるFoxconnの台頭は、そうした変化の象徴といえる。

 だからこそ、Foxconnが日本の装置に一目を置いている事実は、日本の装置の強さを際立たせる。同社の工場でも、一部の装置は台湾や中国の製品に置き換わりつつあるが、重要な装置は依然として日本製だ。

 Foxconnが使っている装置に限らず、日本には独占的な世界シェアを誇る装置メーカーが多数ある。例えば、半導体ウエハーの加工装置を手掛けるディスコは、ウエハーを切断するダイシングソーやレーザソーなどでそれぞれ約70%の世界シェアを持つ第一人者である。

 ディスコの顧客である日本の大手半導体メーカーは、一部の分野を除いて苦戦が続く。一方、同社は2011~2012年度の2期連続で10%以上の営業利益率を確保するなど好調である。なぜなら、同社の加工装置は、日本だけではなく世界中の半導体メーカーから高く評価されているからだ。特定の顧客に依存せず、あらゆる顧客の要望に応えることで、同社は現在の地位を確立した。今では、「半導体メーカーの新たな加工依頼が真っ先に持ち込まれる」(同社代表取締役社長兼技術開発本部長の関家一馬氏)までになった。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

*:日本の大手半導体メーカーが強い分野としては、東芝のフラッシュメモリーやソニーの撮像素子が挙げられる。

参考文献:1)中川威雄,「世界最大のEMS企業Foxconnのものづくりがベールをぬぐ」,『日経ものづくり』,2012年11月号,pp. 29-43.