2013年2~6月号では、2012年10月に日本プラントメンテナンス協会が主催した「からくり改善くふう展2012」の展示品から、生産現場で発生するさまざまな問題を解決するために、現場の人たちが知恵を絞って考案・作製したからくりや治具の事例を紹介します。

事例1:動的バランスとダンパでワークをゆっくり降ろす

 重いワークを傷を付けずにゆっくりと降ろしたい。この作業を電気や化石燃料を使わずに実現できないか─。コベルコ建機広島事業所(広島市)が製作した「腰振れ舞さん」は、生産現場のこうした声に応えた降下専用のリフタだ(図1)。

 図1右の20k~80kgと重いワークを、高いテーブル(高テーブル)から同左の低いテーブル(低テーブル)へと600mmの高低差を移動させる。ワークは建機に搭載する燃料タンクと作動油タンクの金属製部品だ。プレス成形後、プレス機から取り出したときの位置が高テーブルの高さで、これを後工程の溶接工程に移動する際に、低テーブルの高さ(低さ)まで下げる必要がある。このリフタの製作上の課題は、安定して降下するように可動テーブルを水平に保つことと、降下速度を抑えることだ。これらの課題を、後述する平行四辺形構造とダンパの利用で克服した。

 図2(a、b)が、側面から見たこのリフタの構造と動き。右側の高テーブルと左側の低テーブルの間に、可動テーブルがある。高テーブルと低テーブルは固定されていて動かない。これら3つのテーブルは、ワークを転がして動かせるようにローラコンベヤが上に付いている。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

図1●降下専用のリフタ「腰振れ舞さん」0
図1●降下専用のリフタ「腰振れ舞さん」
プレス成形後の重いワークを、右の高テーブルから左の低テーブルへ600mm降下させる。降下と原点復帰には重力を生かし、人手を介さずに自動でワークを移動できる。
図2●リフタの構造と動き
(a)側面から見た構造。固定された高テーブルと低テーブルの間に、可動テーブルがある。可動テーブルは2本のアームで支えられ、下側は可動底板と連結している。これら4つの部品で平行四辺形を構成することが特徴。アームは支点(軸受)を中心に回転できるようになっており、アームと可動テーブル、およびアームと可動底板の支持も回転可能な構造となっている。可動底板に載った2つの重りにより、ワークが載っていないときは、可動テーブルの右端が高テーブルの左端に接した状態になり、これが「原点」となる。(b)高テーブルにあるワークを作業員が押して可動テーブルに載せる。すると、アームには支点を中心に反時計回りの力のモーメントがかかり、反時計回りに回転していく。(c)アームの回転に伴い、ワークを載せた可動テーブルが円弧を描きながら降下する。降下中は可動テーブルがワイヤを介してダンパ機構の抵抗板を引き上げるため、適度な抵抗を得る。これにより、可動テーブルはゆっくりと降下する。これと同時に重りを載せた可動底板が上昇する。(d)可動テーブルが最下点に到着すると、ばねとゴムが衝撃を緩和してワークの傷付きを防止する。(e)同時に、慣性により、ワークは可動テーブルから低テーブルに移動する。(f)可動テーブルが軽くなり、可動底板に載った2つの重りによる時計回りのモーメントが作用してアームが時計回りに回転。可動テーブルが円弧を描きながら上昇する。(g)原点に復帰して次のワークに備える。
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