「独創的な製品を生み出すためのイノベーティブ思考法」では、潜在的価値を発掘するための思考法・手法やそれを使いこなせる人材の育成法を取り上げます。社会人向け教育を手掛ける慶応義塾大学の教員が、実際の企業事例に沿って紹介していきます。

 前回は、ものづくりのイノベーションに「もの・こと・ひとづくり」が必要な理由を、システムデザイン・マネジメント(SDM)学の観点から説明しました。顧客さえ意識していなかった問題を根本的に解決するイノベーティブな提案には、多様なステークホルダーとの「協創」が欠かせません。その際にカギとなるのは、SDM学の特徴である「木も見て森も見る」システムの視点、新たなソリューションを見つけ出すデザインの視点、そしてサステナブルな管理・運用・経営を行うマネジメントの視点です。

 今回から4回にわたり、この3つの視点を実際の企業事例に基づいて説明します。今回は、イノベーションの実現に至る思考の流れを感じ取っていただくために、事例の全体像とそこで得られた結果を紹介していきます。

「良いもの」を造っても売れない

 1954年創業の中小紙器メーカーであるハマノパッケージ(本社兵庫県姫路市)は、近く創業60周年を迎えるに当たり、大きな問題に直面していました。贈答品や洋菓子の包装に用いる貼り箱の専業メーカーとして優良企業との取引で順調に業績を伸ばしてきましたが、近年は成長に陰りが見られるのです。具体的には、製品単価の下落、原材料の高騰、設備投資の負担増、高級品向け製品の不振といった問題を抱えていました。これらは、単一の解決策では対処できない複合的な問題の典型例です。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

富田欣和(とみた・よしかず)
慶応義塾大学大学院 非常勤講師
慶応義塾大学大学院SDM研究科でデザイン・プロジェクトや起業デザイン論、イノベーティブ・ワークショップ・デザイン論などを担当。イノベーティブ・デザイン合同会社代表としてイノベーティブ思考によるソリューション開発支援を手掛けるなど、数社を経営している。実務に生かせる社会システムデザインやイノベーション・マネジメントの研究に取り組んでいる。同大学大学院修士課程修了(システムエンジニアリング学)。