2012年10月31日の午後2時50分ごろ、金沢市内のホテルのバックヤードで業務用エレベータによる死亡事故が発生した。エレベータに乗り込もうとした従業員の女性が、床面と乗降かごとのズレでできた段差につまずいてかごの中に倒れ込んだところ、かごは転倒した女性を乗せたまま上昇。女性はかごの床面と乗降口の天井面に挟み込まれ、救助後に搬送先の病院で死亡した。

 事故を起こしたのはシンドラーエレベータ製のロープ式人荷用兼非常用エレベータだ*1。同社製エレベータといえば、2006年6月に東京都港区のマンションで発生した死亡事故が世間を騒がせた。実は、今回の事故機も巻き上げ機および巻き上げブレーキ(以下ブレーキ)は、港区の事故機と同型だった。

 ロープ式エレベータにおけるブレーキの主たる役割は、止まった乗降かごの位置を保持することにある。従って、ブレーキが故障すると、停止位置を保持できずに乗降かごは勝手に上昇/下降してしまう。

 今回の事故も、ブレーキの制動力が不十分だったことから、停止位置を保てずにドアが開いたまま動き出す事態(戸開走行)に至った。詳細は後述するが、事故原因は大きく2つある。1つは、ブレーキライニングの摩耗と制動力の喪失が起こりやすいという構造上の原因。もう1つは、保守点検が不適切だったという運用上の原因だ。

 特に、前者は2006年の事故でも指摘されており、今回の事故も制動力の低下プロセスは前回と極めて似ている。一体なぜ、同じような事故が繰り返されてしまったのだろうか。
〔以下,日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

*1 ロープ式エレベータは、乗降かごと、それよりも少し重い重りとを1本のロープを介して滑車の両側にぶら下げたような構造となっている。乗降かごは、巻き上げ機でロープを駆動して昇降させる。