2013年1月に相次いで2件発生した「Boeing787」のリチウムイオン2次電池(LIB)の過熱・発煙トラブル。現在、日本の運輸安全委員会(JTSB)と米国家運輸安全委員会(NTSB)が、協力してトラブルがあった全日本空輸(ANA)機と日本航空(JAL)機のLIBを調査している。依然として原因究明には至っていないが、短絡による熱暴走によるものらしいということは分かってきた。

1つのセルの過熱から全体に

 NTSBは、8つのセルのうちの1つ(#6)の損傷が最もひどいこと、その電極にホットスポットの痕跡が認められることなどから、まずこのセルの電極が何らかの原因で短絡したことによって熱暴走の状態に陥り、次にその熱の影響で他のセルも次々と熱暴走に至って電池全体が炭化したとの見解を示している(図)*1。ただし、短絡が内部短絡か外部端子の短絡なのかなどについては言及しておらず、なぜセルで短絡が生じて熱暴走に至ったのかは、依然として分かっていない。

 リチウムの結晶成長による内部短絡については否定的な見方をする専門家が多いが、NTSBが原因の可能性の1つとしてデンドライトについても分析しているとの報道もあり完全には否定できない1)。技術士の平山良彦氏は、多数の電装系の同時稼働による過電流、地上と上空との気圧差による電池の変形ストレス、充電状態と充放電サイクル寿命とのバランスなど、多様な視点での分析が必要だと指摘する。原因究明にはまだ時間がかかりそうだ。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

図●NTSBが調査しているLIB
過熱・発煙したJAL機のLIB。写真左は上面から、写真右は左右からみたもの。写真中の数字はセルの番号を示す。8つのセルのうち、#6セルの損傷が特にひどいとしている。側面から見ると、右側と左側で焼損の度合いが大きく異なることが一目で分かる。 写真:NTSB
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*1 一部のセルでまず熱暴走が起こり、それが電池全体に波及したとの見方は、JTSBも同様。JTSBの分析では、ANA機のLIBは、#3、#6セルの損傷が大きかった。特に#3セルの陽極には著しい損傷が認められたという。

参考URL 1) URL:http://www.reuters.com/article/2013/02/12/boeing-dreamliner-batterydendrites-idUSL4N0BC1RF20130212