原子力規制委員会は2013年1月31日、原子力発電所の「新安全基準」に関する骨子案を公表した。そこには従来よりも厳しい地震/津波対策や巨大フィルタの設置、テロ対策といった項目が盛られている。骨子案は意見公募などを踏まえ、7月の法制化を目指す。本誌で福島第一原発事故を分析し続けてきた桜井淳氏がその骨子案を検証する。(本誌)

 残念ながら、原子力発電に関する施策や対策は日本よりも欧米の方が進んでいる。大雑把にいえば、[A]地震、[B]洪水、[C]電源喪失、[D]ベンチレーション系の放出放射能低減化、[E]原子炉除熱機能喪失、[F]原発/ 隣接施設での火災、[G]テロ攻撃、[H]航空機墜落、[I]空爆、などの不測の事態に備え、既に社会制度や法制度が整備され、的確な工学的安全対策が施されている*1。特に、ドイツとスイスが世界をリードする*2

 こうした欧米での苛酷炉心損傷事故対策の動向を鑑み、日本の原子力規制委員会は2013年1月31日、苛酷炉心損傷事故対策の新安全基準の骨子案を公表した1)

 その内容は、[1]従来よりも厳しい考え方に基づいた、地震と津波に対する工学的安全対策、[2]ベンチレーション系の放出放射能を低減する巨大フィルタの設置、[3]第二制御室の高台への設置、[4]複数の非常用空冷式ガスタービン発電機の高台への設置、[5]淡水/海水冷却系の高台への設置、[6]原発と隣接施設での火災対策、[7]消防車の高台への設置、[8]テロ対策、[9]航空機墜落対策、など広範に及ぶ。

 これら新安全基準の骨子案を検証する前にまず、日本の安全対策の脆弱性について簡単に触れておく。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

*1 [A][B][C][F][G][H]は欧州のストレステストの項目。[B]の洪水は、欧州の多くの原発が内陸部の河川沿いに設置されているために含まれており、日本の津波対策に匹敵する。

*2 両国はベンチレーションフィルタの設置、第二制御室や電源の高台への設置など、これまで積極的に対策を実施してきた。

1) 『朝日新聞』,2013年2月1日付朝刊.