シャープの「プラズマクラスター」、パナソニックの「ナノイー」…。
イオン系放射物の発生機を搭載した家電製品が空気清浄機を中心に売れている。イオン系放射物がもたらすというウイルスの不活化や殺菌の効果が消費者の心を捉えているのだ。
だが、そうした人気の一方で今、学会や試験機関、競合メーカーなどから、イオン系放射物を搭載した家電製品の効果を疑問視する声が上がっている。本誌は、複数の否定派の意見を集約し、イオンの殺菌効果に対する疑問点をシャープ、パナソニック両メーカーに直接ぶつけてみた。
両メーカーの反論は…。

疑問

 「当然の結果だろう」。空気清浄機や室内空気に関する正しい情報発信を目的とした有識者団体「室内空気向上委員会」のメンバーである日本大学理工学部建築学科教授の池田耕一氏は、消費者庁がシャープに対して行った措置命令をこう見る。

 2012年11月28日、同庁はイオン系放射物である「プラズマクラスター」発生装置が付いた掃除機に関して景品表示法に違反する行為があったとして、その違反を消費者に周知徹底し、再発防止策を講じることなどを同社に求めた(図1)*1。違反と見なされたのは、カタログやWebサイトに表示した「掃除機の中も,お部屋の中も、清潔・快適」「ダニのふん・死がいの浮遊アレル物質のタンパク質を分解・除去 約15分で91%作用を低減します」などといった文言である。

 プラズマクラスターは、プラズマ放電で空気中の酸素分子と水分子を電離させて生じる陽イオン(H)と陰イオン(O2)のそれぞれの周囲に水分子が付着したもの(図2)。これがウイルスや細菌の表面に付くと、化学反応により酸化力の強い、活性酸素の一種であるヒドロキシル・ラジカル(以下、OHラジカル)に変化。ウイルスや細菌の表面のタンパク質から水素を抜き取って分解(酸化分解)する、というのがシャープの説明だ。空気清浄機の付加機能として高い人気を誇るだけでなく、2000年の発売以来、プラズマクラスター搭載製品の累計販売台数は優に4000万台を超えている(図3)。

 だが、プラズマクラスターを含むイオン系放射物による空気清浄効果に否定的な見解を持つ池田氏にとって、消費者庁の判断は納得がいくものだったようだ。

 シャープは、「空気清浄機と比べて掃除機の使用時間はそれほど長くないのに、部屋中の空気をきれいにするという誤解を与えてしまった」と反省する一方で、「プラズマクラスターの性能を否定するものではない」と強調する。だが、措置命令の文書には「室内の空気中に浮遊するダニ由来のアレルギー原因となる物質を、アレルギーの原因とならない物質に分解又は除去する性能を有するものではなかった」とある。消費者庁は「手の内は明かせない」として評価の詳細は明らかにしないものの、「科学的な見地から性能を有さないと判断した」と説明する。

 シャープに従えば、ウイルスや細菌の表面のタンパク質を分解する性能を司るのはプラズマクラスターである。掃除機に搭載されたものに限定されているとはいえ、国の機関から「性能を有さない」と指摘されたことは、イオン系放射物の効果に対する否定派の目には、プラズマクラスターの効果自体に疑問が呈されたと映るようだ。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

図1●景品表示法違反を指摘されたシャープの掃除機
付加価値として搭載したプラズマクラスターの性能に対し、カタログやWebサイトの表現(赤枠で囲んだ文言)にいきすぎがあったと消費者庁から指摘された。同庁の資料から。
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図2●プラズマクラスターの酸化分解のメカニズム
それぞれ水分子で囲まれた陽イオン(H)と陰イオン(O2)がウイルスや細菌の表面に付着すると、酸化力の高いOHラジカルに変化する。これが表面のタンパク質から水素を引き抜くことで、不活化および殺菌効果を持つ。
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図3●プラズマクラスターを搭載した空気清浄機
図3●プラズマクラスターを搭載した空気清浄機

*1 対象の表示期間は2010年10月頃~2012年4月頃まで。