第2部:製造業へのインパクト

試作のハードルが下がり
開発プロセス革新の好機到来

 3Dプリンタの価格低下や造形材料の拡充が進み、関連するネットワークサービスも充実してきた。製造業以外にも用途が広がり、個人などのユーザー層も拡大してきている。こうした流れを受けて、「誰でもメーカーになれる」と主張する向きもあるが、実際には製造業に身を置く企業にとってこそ、既存事業の競争力の向上や新たな事業領域の開拓を図る上で、3Dプリンタは有力な手駒になる。

 前者の競争力の向上は、[1]開発プロセスの革新、[2]少量生産への対応力向上によって、後者の新事業領域の開拓に関しては、[3]ものづくりノウハウの提供、などによってもたらされる。以下、これら3つのドライビングフォースを詳しくみていこう。

試作の役割を見直す

 まず、[1]開発プロセスの革新は、3Dプリンタをコミュニケーション・ツールとして利用することで実現できる。

 これまで製造業の開発プロセスにおいて、3Dプリンタは試作品の作製手段として用いられてきた(図1)。「ラピッド・プロトタイピング」の延長線上にある3Dプリンタは試作品を素早く、安価に手に入れられるからである。設計情報を実体化し、組み立てて形状を確認したり、実験で機能を確認したりする用途だ。

 3Dプリンタによる立体モデル作成のコスト低減や時間の短縮は着実に進んでいる。単に従来の試作品の作製手段を置き換えるという発想ではなく、試作の役割そのものを見直すことが考えられる。それが、コミュニケーション・ツールとしての利用である。

 従来はコストや期間を考えて「試作するほどではない」と躊躇していたようなケースでも、どんどんと3Dプリンタによって試作する。1度に造れる試作品の数も、修正を加えて造り直す回数も格段に増える。

 こうやって造られた試作品は、従来の試作のように単に形状や機能を確認するのではなく、設計を決める過程、つまり試行錯誤の段階で使える。モノをベースに多くの人が議論することで理解が深まり、画面上の3Dモデルや図面では気が付かないようなことも指摘できる。

 ここで大切なのが、モノをベースにする以上、その場に関係者がいる必要があるということだ。グローバル化の進展によってITを駆使した遠隔地コミュニケーションの必要性が高まり、活用も進んでいるが、実物を目の前にしたコミュニケーションには及ばない。日本では地理的に近いところに多くのメーカーがひしめく。3Dプリンタを使えば、この状況を利点とした新しい開発プロセスが生み出せるはずだ*1
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

図1●試作プロセスの変化
図1●試作プロセスの変化">
従来は、試作期間の短縮や低コスト化を目的に3Dプリンタを活用することが多かった。今後は、3Dプリンタによる造形がより手軽になるため、さらに上流工程におけるコミュニケーション・ツールとしての活用が広がる。

*1 この考え方は、成形・加工を請け負う町工場でも生かせる。顧客のアイデアを3Dプリンタで実体化できれば、顧客層を広げやすくなるとともに、誤解に基づく手戻りを減らし、結果として顧客満足度を向上させられる。