第1部<開発スタイルの変化>
部材メーカーが医療現場へ
新視点でイノベーション起こす

今後の成長産業として有望視される医療機器。その開発に今“革命”が求められている。電子部品や半導体などの部材メーカーが持つ強みや独自の視点を生かし、医療従事者と共にイノベーションを起こすことが期待されているのだ。

部材メーカーが医療機器開発の主役に

 医療機器は遅れている──。語弊があるかもしれないが、医療現場の取材を重ねれば重ねるほど、この結論に行き着く。

 もし、民生機器や自動車などの分野でスピード感やコスト改善力を磨いてきた電子部品や半導体などの部材メーカーが、医療現場や医療機器の実情を知れば、「あれ?」と驚くことが多いだろう。

 自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部 技師長の百瀬直樹氏は、医療現場に携わる立場から、医療機器の現実を次のように語る。「医療機器と言えば、先端技術がつぎ込まれていたり信頼性が高かったりといったイメージで見られがちだが、そうとは限らない。例えば、自動車向けに厳しい要求事項に対応しながら部材を供給しているメーカーに、医療現場やそこで医療機器がどう使われているのかを見せたとする。その中に、自社のノウハウを活用できる余地がたくさんあることに気付くはずだろう。我々も部材メーカーと協力していけば、確実にイノベーションを起こせる」。

脇役から主役に

 これまで部材メーカーは、医療機器の開発においては、あくまで“脇役”にすぎなかった。主役は、医療機器メーカーである。既に医療機器向けに納入実績がある部材メーカーですら、医療現場の具体的なニーズは把握していない。医療機器メーカーが求める仕様に沿った部材を納入しているだけという場合が多いのだ。

 今、強く求められているのは、部材メーカーが直接医療現場のニーズを把握した上で、医療現場と連携して医療機器のイノベーションを導くことだ。いわば、部材メーカーが“主役”となる医療機器開発である。「他の業界で磨かれてきた部材メーカーの知見を、医療機器業界に持ち込むことで、“ビッグ・バン”を起こしてほしい」(国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター長の妙中義之氏)、「医療機器のイノベーションを加速させるためには、これまでと視点を変え、部材メーカーと初期段階から連携して開発を進めることが必要だ」(京都府立医科大学 副学長の?松哲郎氏)といった“革命”を求める医療現場の声は、あちこちから聞こえてくる。

『日経エレクトロニクス』2013年2月18日号より一部掲載

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第2部<求められている技術>
多様な医療ニーズの対応へ
部材メーカーに集まる期待

医療現場には、これまで満たされていなかった細かなニーズが数多く存在する。それらの医療ニーズへの対応こそが、部材メーカーに寄せられている期待である。まだ存在していない機器や、既存の機器の改良に向けた技術が必要なのだ。

部材メーカーに求められている2種類の技術

 医療機器のイノベーションに向け、部材メーカーに求められている技術は幅広い。何しろ、医療機器は国内だけでも「約2兆円の市場に、約61万品目の製品がひしめく個別市場の集合体」(シード・プランニング 主任研究員の唐弓昇平氏)であり、多種多様な要素技術が不可欠だ。

 特に、部材メーカーへの期待が大きいのが、まだ満たされていない医療現場の細かなニーズに対応していくことである。具体的には、(1)これまで存在しなかった機器の実現に向けた技術、(2)既存の医療機器の改良に向けた技術、によって医療現場が抱える課題を解決していくことが求められている。

 経済産業省は、平成22年度補正予算から「課題解決型医療機器等開発事業」を実施しており、その一環として2012年9月に「医工連携推進シンポジウム」を開催、2013年1月下旬にはWebサイト「医療機器アイデアボックス」を本格稼働した。こうしたシンポジウムやWebサイトで具体的に示されている内容は、まさにこれまで満たされてこなかった医療現場の切実なニーズに他ならない。

 既存の医療機器メーカーにとっても、部材メーカーに対する期待は大きい。世界大手の医療機器メーカーである米GE Healthcare社の日本法人、GEヘルスケア・ジャパンは2012年2月、青森県内の部材メーカーなどとのビジネス・マッチングを図るためのイベントを開催。今後の機器開発に向けて、同県内の部材メーカーが持つ多様な要素技術を取り込む狙いだ。

 部材メーカーの要素技術が求められている幾つかの具体事例を見ていこう。

『日経エレクトロニクス』2013年2月18日号より一部掲載

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第3部<薬事法対応の実際>
ある中小企業が医療機器開発
いかに参入を果たしたのか

現在の機械から人への情報提示はディスプレイへの文字や記号、音に頼っている。しかし、この提示方法は人が意識を向けていないと有効ではない。新たな提示方法として、感覚器に直接訴えかけて人の感覚を拡張する研究が進められている。

大田区のものづくり企業が血圧計を開発

 医療機器分野への参入を狙う部材メーカーが、医療機器メーカーへの要素技術の提供にとどまらず、自ら機器開発まで手掛けようとするケースもあるだろう。その場合には、他の業界とは異なる独特の作法が必要になる。すなわち、薬事法への対応だ。

 この薬事法の存在は、新規参入を目指すメーカーにとっての参入障壁と指摘されることが多い。では、薬事法への対応とは、具体的にはどのようなものなのか──。本章では、医療機器開発に新規参入した、ある部材メーカーの薬事法への対応の経緯を基に、その一端を見ていこう。

新たな理論の紹介がキッカケに

 ある部材メーカーとは、電子部品の自動組立機械や検査装置などを手掛けるTSS。東京都大田区に本拠を構える、いわゆる“中小ものづくり企業”の1社だ。同社は2012年、自ら開発した医科向け電子血圧計の薬事認証を取得し、医療機器分野への新規参入を果たしたのである。

 TSSが血圧計の開発を目指すことになったキッカケは、2009年3月、同社の技術者が血圧測定に関する新理論が示された論文を知人に紹介されたことにある。

『日経エレクトロニクス』2013年2月18日号より一部掲載

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