量子コンピュータは、スーパーコンピュータでも数十億年かかる暗号の解読を数分で終える能力があるとされる。しかし、数年前までは専門家さえも実現性を疑っていた。最近、ブレークスルーが相次ぎ、本格的な量子コンピュータを構築する道筋が見えてきた。超電導回路、MRAMなどのメモリ、Si半導体、光伝送などの技術者が実現一番乗りを目指して走りだした。

本格的な量子コンピュータはいつできるか

 今、量子コンピュータ(QC)の開発が大きな節目を迎えている。長く開発が続けられていたタイプのQCでいよいよ、実用化に向けた動きが出てきた。その一方で、新しい原理に基づくQCが登場し、一部は既に開発を終えて、実用化され始めた。

 従来からあるQCは、「量子チューリング・マシン」とも言われ、問題に応じたアルゴリズムに従って、そろばんをはじくように演算を進めていくタイプのQCである。この3年ほどで急速に実用化への道が開けてきた。「本格的QCはあと数年~10年で実現可能」──。2012年2月、QCの著名な研究機関が相次いでこう主張し始めた。例えば、米IBM社は、「我々は、QCを製造する間際にいる」と発表。米University of California, Santa Barbara(UCSB)校でQCを研究するProfessorのJohn Martinis氏のグループも「技術的には10年以内に本格的なQCを実現できる」と述べた。

 数年~10年先というのは遠い将来にも思えるが、数年前までは専門の研究者の中でさえ、「QCの実現は1000年先」「単なるSF」という声が少なくなかった。それが、実現時期を見通せるほどに現実的になってきたのである。

もう一つのQCは「販売済み」

 一方で、新原理のQCの中には、「既に開発が終わり、発売を始めた」とするQCもある。この新原理のQCでは、解くべき問題に応じたアルゴリズムを持たない。解くべき問題は、特定の物理学の問題に翻訳し、その解は、一種の物理実験を通して得る。そしてその結果を解くべき問題に対する回答として再翻訳するのである。

 カナダのベンチャー企業であるD-Wave Systems社は2007年に、この“もう一つのQC”の最初のプロセサを発表した。その後、システムを急速に拡大し、2011年5月には最初の製品を戦闘機大手の米Lockheed Martin社に販売した。

『日経エレクトロニクス』2013年2月18日号より一部掲載

2月18日号を1部買う