市場における不具合/不満の発生を未然に防止するには、開発プロセスにおけるデザインレビューが不可欠です。「Quick DRを始めよう」では、設計の変更点/変化点に着目することで迅速かつ簡便に実施できるQuick DRの特徴と進め方について解説します。

Quick DRの標準ツールと実施上のポイント

 前回(2013年1月号)は、日産自動車(以下、日産)においてQuick DRが生まれた背景と、その概要について紹介した。今回は、未然防止に有効なデザインレビュー(DR)を実現するために整備したQuick DRの標準ツール*1と実施上のポイントについて解説する。

適切な課題を選定

 前回紹介した通り、過去に発生した重大不具合の発生要因を分析した結果、「変更点/変化点を見逃してしまいデザインレビューを実施しなかったため」という理由が38.0%と最も多かった。これはデザインレビュー自体の問題ではなく、デザインレビューを適用する課題の選び方の問題である。

 デザインレビューのプロセスやツールを完璧に整えても、デザインレビューを適用すべき課題を見逃してしまっては意味がない。一方、闇雲に全ての課題にデザインレビューを適用すれば、その準備に膨大な労力を費やすことになってしまい、効率的に品質向上を進めることはできないだろう。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕

図1●リスクアセスメント・シート
各技術領域のエキスパートが論議を重ねて絞り込んだ9つの視点(機構・構造、寸法・質量、電子機能、レイアウト、材料、工法・工程、組み合わせ、使用環境、使い方)で新規性を判断する。この中で1つでも新規性4以上の項目があればFull Process DRを適用し、新規性3の項目があればQuick DRを適用する。
[画像のクリックで拡大表示]

*1:ここでは、DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)やFMEA(Failure Mode and Effects Analysis)、FTA(Fault Tree Analysis)といった分析手法で使うシート類やリスクアセスメント・シート、機能ブロック図、QA表などをツールとする。

大島 恵(おおしま・めぐむ)
ボッシュ シニア・ゼネラル・マネージャー
1976年日産自動車入社。主に強度信頼性設計、実験、振動騒音開発に従事。2005年から車両品質推進部部長、品質エキスパトリーダー。設計品質の向上活動に取り組み、日産自動車独自の品質手法を開発し、日産自動車および関連会社に展開して実践する。2012年から現職となり、設計品質の向上を指導。

奈良 敢也(なら・かんや)
日産自動車 車両品質推進部 主管
1987年日産自動車入社。主として、品質、信頼性向上、安全部品設計に従事。2006年からは慶応義塾大学理工学部 非常勤講師( 品質工学、実験計画法)、2009年から車両品質推進部主管。