剛な部分を通って支持点へ向かう
力の流れ、すなわち構造物の内部の荷重伝達を検討することは、構造計算の結果がなぜそのようになっているかの理由(Awareness)を探る意味で重要である。本コラムの第1回(前回)では、幾つかの具体的な構造物を例に、力の流れとその構造の良否について、直観的な説明をした。今回は、この力の流れ、すなわち荷重の伝達を厳密に定義し計算する手法について解説する。
その前に一度、構造物を検討する際に用いる指標の変遷を振り返りたい(図1)。人類が構造について考え始めてからしばらくの間は、“変形”を主要な指標としてきたであろう。近世になって“応力”の概念が導入され、今では変形と応力が構造検討の主な指標となっている。ただし、その構造になぜそのような変形あるいは応力が生じたのかというAwarenessを示すことは難しい。
構造解析の手段としては有限要素法(FEM)が代表的だが、これも変形と応力に関する計算手法であり、Awarenessを導く解析手法とは言えない。最適化(Optimization)、すなわち構造計算を繰り返し行うことによって、ある判定基準の下に最も望ましい構造に到達してゆく手法は、最近の重要な研究課題である。しかしこの手法もまた、なぜその結果が最適なのか、Awarenessについての問いに答えることはできない。
これらを示す指標の1つとして、構造内部の力の流れを示す指標U*(Ustar、ユースター)1、2)の導入が有効である。
〔以下、日経ものづくり2013年2月号に掲載〕
慶應義塾大学名誉教授