情報産業の発展や新興国の台頭に伴い、日本では「ものづくりの時代は終わった」などという言説を目にする機会が増えてきました。実際、日本のGDP(国内総生産)に占める製造業の割合は今後低下していくでしょう。手をこまぬいていれば、個々の企業も衰退してしまいます。
こうした閉塞状況を打破すべく、多くの企業が既存の製品や技術を磨いて最先端のものづくりに特化しようとしています。しかし、筆者はもっと魅力的な戦略を提案したいと思います。それは、「もの・こと・ひとづくり」によるイノベーションの実現です。
もの・こと・ひとづくりとは、製品を開発する過程(ものづくり)で、単に機能や性能を強化するだけではなく、顧客が潜在的に求めている価値を発掘・提供(ことづくり)し、さらに価値を発掘・提供できる人材の育成(ひとづくり)までも一体的に進める活動です。そのために不可欠な思考法や手法について、筆者らは「システムデザイン・マネジメント」という学問(以下、SDM学)として普及を図っています。
そこで本コラムでは、実際にSDM学の思考法・手法を用いて画期的な新製品を開発した企業の事例を基に、もの・こと・ひとづくりからイノベーションを生み出すまでの流れを紹介します。今回はもの・こと・ひとづくりがイノベーションの実現に必要な理由とそれに用いるSDM学の概要を、次回以降は事例に沿って具体的な思考法・手法の使い方を説明していきます。
〔以下、日経ものづくり2013年2月号に掲載〕
慶応義塾大学大学院 教授