低価格競争が激化する中、多くの日本メーカーが多機能化や付加機能の搭載に躍起になっている。だが、顧客は本当にそれらの機能を望んでいるのだろうか。「白物家電」と呼ばれる家電製品の中には、単価の引き上げを実現し、かつロングセラーを続ける製品がある。それらは機能の数の競争に背を向け、製品に求められる基本機能で勝負する。基本機能こそ顧客が望む「本質機能」と捉えて、そこで革新技術を生んでいるのだ。そうした家電製品から、これまでの多機能化とは一線を画す高付加価値製品の開発方法を学ぶ。(近岡 裕)
第1部:大ヒット商品を目指せ
多機能化の発想に背を向けろ
2倍超の価格で10年売り続ける
薄型テレビなどデジタル家電の不振に苦しむ電気業界だが、明るい材料もある。家庭での生活を支える「白物家電」が健在だ*1。数年前まで付加価値の低い「コモディティー商品」の代表のように語られていたが、現実は違ったようだ。
だが、白物家電の全ての製品が好調というわけではない。中身をよく見ると、高額で息の長い「大ヒット商品」が各社の業績に大きく貢献していることが分かる(図1)。例えば、シャープが開発したオーブンレンジ「ヘルシオ」。10万円を優に超える製品で、最新の最上位機種の価格は15万8000円もする*2。平均単価の5倍以上の高額製品だ*3。
過熱水蒸気を使って食材を加熱するという新技術で、料理しながら食材に含まれる塩分や油分の一部をカット。健康志向の消費者の心を捉え、2004年の発売以来、同シリーズは8年を超えるロングセラーを続けている。
三菱電機の炊飯器「本炭釜」シリーズもそうだ。加熱力に優れる炭素製の内釜を採用し、米をムラなく炊きあげる。これにより、販売店などから「横綱」と称される、最高クラスのご飯のおいしさを実現。その結果、従来の高級機の2倍の価格で、約7年売れ続けている。
最も典型的な例は、英国の家電メーカーDyson社の掃除機だろう。多段式の遠心分離技術で高い吸引力を持続させ、μm単位の細かいゴミまで取り除く。一昔前の高級機種の3~4倍もする高額な掃除機でありながら、日本市場に投入後、13年を超えても人気を維持し、高いブランド力を誇っている。
〔以下、日経ものづくり2013年2月号に掲載〕
*1 例えば、パナソニックは、2013年3月期(2012年度)の白物家電の売上高が1兆5400 億円と、1兆4100 億円のデジタル家電を逆転する見込み。営業利益では6割近くを白物家電が占めると見られており、同社は同事業を成長事業と位置づけている。(2012年12月26日付日本経済新聞より)。
*2 発売当初の実売想定価格。
*3 シャープ調べ。