白物家電をはじめ、鉄道車両や産業機器の電力変換器に、次世代材料を用いたパワー半導体を採用する機運が高まっている。現在はSiCダイオードだけだが、今後はSiCトランジスタやGaNトランジスタの採用も始まる。そのポテンシャルを生かすには、応用技術の確立が欠かせなくなる。

次世代パワー素子の活躍の場が広がる

 SiCやGaNといった次世代パワー半導体を電力変換器に採用する事例が急増している。特に、採用が活発化しているのがSiCダイオードである。これまで採用例はエアコンといった白物家電やサーバーなどに限られていたが、2012年には産業機器や鉄道の分野にまで広がった。

 例えば富士電機は、ポンプやファンを駆動できるインバータ装置に、三菱電機はCNC(数値制御装置)に接続して工作機械のモータの駆動・制御を行う「モータドライブ装置」に採用した。鉄道分野では、東京地下鉄の銀座線の「01系車両」に、SiCダイオードを搭載した三菱電機のインバータ装置を装着し、2012年2月から営業運転している。

 2013年以降はSiCダイオードの適用範囲が広がるとともに、SiCトランジスタやGaNトランジスタの採用が始まる見込みだ。例えば、次世代パワー半導体の導入を積極的に表明している安川電機は、GaNトランジスタを搭載した、太陽光発電システム用パワー・コンディショナーを2014年内に実用化する計画を明らかにしている。SiCトランジスタに関しても、2014年度中をメドに同社の電力変換器にSiCダイオードとともに適用する構えだ。競合他社は、SiCやGaNを用いたトランジスタの採用について明らかにしていないが、2013年後半~2014年に実用化するとみられる。

 電気自動車やハイブリッド自動車、燃料電池車にも、次世代パワー素子が搭載される見込み。まずはSiCダイオードからで、「2015~2017年発売の新車に入れたい」(ある大手自動車メーカーのパワー素子技術者)との声が上がっている。

パワー素子の状況が好転

 ここにきて、電力変換器への次世代パワー素子の採用が進んでいるのは、同素子を利用する環境が整ってきたからである。次世代パワー素子は、現行のSiパワー素子に比べて、電力変換器における電力損失の低減や小型・軽量化が可能になることから、注目されてきた。ところが、コストと電気特性の面で課題があり、利用がなかなか進まなかった。

『日経エレクトロニクス』2013年1月7日号より一部掲載

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