『日経ものづくり』は2013年、本誌や各種イベントを通じて、日本の工場を応援する新しいプロジェクトを立ち上げる。その名も「シリーズ・強い工場」。その第1弾が本特集である。強い工場の陰には必ず、強い工場長、すなわち「鋼の工場長」の存在がある。工場長は何を考え、現場を動かし、いかに工場をつくるのか。12人の鋼の工場長の強さの源泉を探った。(「強い工場」取材班)

プロローグ:新工場誕生

 日本にまた1つ、新しい工場が産声を上げた。トヨタ自動車東日本(本社宮城県・大衡村)の宮城大和第3工場である。コンパクトカーに搭載するエンジンを生産する。目指すのは、「品質でもコスト競争力でも、世界一のエンジン工場」(同社)。従業員の振り上げた拳に決意がみなぎる。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕

総論:雨にも負けず 風にも負けず

 日本の工場はバブル経済崩壊後の約20年間、幾多の経済危機や災害の試練にさらされてきた(図1)。最近では、円高や電力不足などのいわゆる6重苦と呼ばれる厳しい経営環境が加わり、海外に生産拠点を移すメーカーが後を絶たない。しかし、日本の地から去っていく工場ばかりかというと、決してそうではない。創意工夫を凝らすことで、元気に日本の地でものづくりを続けている工場は確かに存在する。

 例えば、「iPhone」や「iPad」に使用されるNANDフラッシュメモリーを生産する東芝セミコンダクター&ストレージ社の四日市工場。同工場は、「投資を抑えて生産性を最大化する」という工夫を凝らすことで、日本でしかできないものづくりにこだわり続けている。複合機を生産するキヤノンの取手工場も、生産だけではなく開発や試作まで手掛ける「複合機の総本山」となることで日本の地に残り続けている。「グローバル化の流れに無理に抵抗しても仕方がない。日本にしかできない仕事を追い求めるのが先決だ」(同工場工場長の奥垣弘氏)。

 両者のように日本でものづくりを続ける工場の共通点を洗い出してみると、次の2点が挙げられる。「時代の変化を機敏に捉えて柔軟に対応していること」と「創意工夫を常に凝らしていること」である。

 本特集では、この2点を実践する工場を「強い工場」と定義し、スポットライトを当てる。すなわち、「幾多の困難に遭遇してもそれに柔軟に対応し、独自の創意工夫で日本でものづくりを続ける工場」だ。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕

図1●「強い工場」とは、独自の創意工夫で日本でものづくりを続ける工場
図1●「強い工場」とは、独自の創意工夫で日本でものづくりを続ける工場
日本の工場はこの20年間、幾度となく経済危機や自然災害に見舞われ、苦境を強いられてきた。それでも独自の創意工夫で日本でものづくりを続ける工場こそ本誌が定義する「強い工場」だ。

事例:キヤノン 奥垣 弘氏

最先端の生産技術が原動力
高い目標で向上心を引き出す

 キヤノンの取手工場は、複合機の生産だけではなく開発や試作などの機能も備える「複合機の総本山」ともいうべき拠点だ(図2)。その工場長を務める奥垣弘氏は、強い工場の条件として「技術力」と「情熱」の2つを挙げる。

 ここでの技術力は、自動化に代表される最先端の生産技術を開発する力のことである。現在、取手工場では高性能印刷機であるプロダクション・プリンタなど一部の高額製品しか造っておらず、大多数の製品は中国・蘇州市の工場〔佳能(蘇州)公司〕をはじめとする海外の拠点で生産している。取手工場は、全世界の複合機工場を統括するマザー工場として「新しい技術や仕組みをつくる」(奥垣氏)ことに主眼を置いているのだ。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕

図2●取手工場の生産ライン
図2●取手工場の生産ライン
プロダクション・プリンタなど高機能な製品の生産に特化している。

事例:富士重工業 田村 聡利氏

生産車種の大変更を克服
工場内の全員で考えを共有

 富士重工業の本工場にとって、2012年は激動の年だった。最大の変化は同年3 月、「スバル360」から半世紀以上も続いた軽自動車の生産を終了し、トヨタ自動車と共同開発したFR(前部エンジン・後輪駆動)スポーツカー「SUBARU BRZ」および「TOYOTA 86」の生産を開始したことだ。「設備も工程もがらりと変わった」(富士重工業スバル製造本部群馬製作所第1製造部部長の田村聡利氏)のである。

 さらに、同年8月には「インプレッサ」「SUBARU XV」の生産も開始。これらを生産する矢島工場(群馬県太田市)との間で「工場間では初めての『ブリッジ生産』」(同氏)の体制を整えた。BRZや86も含めると4車種の混流生産となり、同時に生産能力をそれまでの年間10万台から同15万台へと増強。2013年1月からは、生産能力をさらに1割高め、年間生産台数を16.5万台とする予定だ。自動車の海外生産、どこ吹く風である。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕