スマートフォン向け生体認証技術の開発が、急速に進み始めた。キッカケは、米Apple社が生体認証技術に興味を持っているという状況証拠がそろってきたからである。「Apple社が採用すれば、生体認証技術は普及するに違いない」。そうした期待が、生体認証技術を開発するメーカーを駆り立てる。専用デバイスを必要とせず、スマートフォンのカメラなどで認証できる技術の開発も活発になってきた。

Apple社の動きがキッカケ

 「米Apple社が次期『iPhone』に生体認証機能を搭載するのではないか」──。当初は生体認証に関わる技術者の噂話にすぎなかったが、最近になって確信を持って語られるようになってきた。

 Apple社の動きが最初に表面化したのは、2012年7月26日に米証券取引委員会(SEC)に提出された資料だった。Apple社が、指紋認証技術を開発する米AuthenTec社を買収することが明らかになったのである。買収金額は、約3億5000万米ドルと言われている。Apple社はiPhoneやiPadの機能を高めるために次々と企業を買収してきており、AuthenTec社もそうした企業の一つではないかとの憶測が膨らんだ。

 この見方を裏付けたのが、2012年10月11日に公開になったApple社の特許だった。特許の説明図に描かれたiPhoneにそっくりな“handheld device”に、さまざまな生体認証機能が搭載されていたのである。

 特許の説明図には、ディスプレイに触ると生体認証が可能になる例も示されていた。この特許を見た国内のあるディスプレイ関連技術者は、「ピクセルの隙間に受光素子を形成するといったことで実現可能かもしれないが、技術面とコスト面の双方でハードルはかなり高い」と困難さを指摘した。しかし同時に、Apple社の技術力の高まりを念頭に、「インセルを実現したApple社なら、何か革新的なアイデアを有しているのかもしれない」と唸った。

期待と不安が交錯

 「Apple社が採用すれば、生体認証が身近な存在になる」、「Apple社にすべてを抑えられる前に対抗技術を用意しなければ」──。こうした期待感と不安感が、業界を動かし始めた。

『日経エレクトロニクス』2012年12月10日号より一部掲載

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