「『死の谷』を乗り越え、新市場を拓く 徹底!保有技術の棚卸し」は、今号で終わります。2013年1月号からは、構造解析において、「構造物のどこに力が流れているか」を明らかにし、構造の直観的な把握を可能にする新手法U*について解説します。

R&Dと連動した特許活用で資産を増やす

 これまで、保有技術を用いて効率的に技術開発するプロセスについて解説してきた。第1回(2012年10月号)では、自社の保有技術を見える化する方法を、第2回(同年11月号)では、見える化した技術資産を市場価値に結び付けるための研究開発(R&D)ポートフォリオの作成・管理手法を取り上げた。自社の事業価値を効率的に向上させるには実は、技術開発に加えてもう1つ重要な要素がある。それは特許活用である。

 例えば、保有技術を見える化すると、技術的には優れているものの自社の製品やサービスには活用できないことが判明する場合がある。そんなとき、その技術の特許を他社に売却したりライセンシングしたりすることで、自社の知的財産(IP:Intellectual Property)価値を向上できる。

 あるいは、競合優位性を意識したポートフォリオで新しい製品やサービスを開発しても、他社の追随により途中から収益化が難しくなるケースがある。こうした事態に陥る前に、自社技術を特許で守ったり、他社から周辺特許を買い取ったりすれば、事業継続の道が開ける可能性が高まる。つまり、技術開発と特許活用は、事業価値創造という点で「車の両輪」なのである(図)。

 最終回となる今回は、技術開発プロセスと連動しながら、どのように特許活用を推進していけばいいかを取り上げる。

〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図●技術開発と特許活用は事業価値創造の両輪
図●技術開発と特許活用は事業価値創造の両輪
グローバル競争に勝ち残るには、「顧客価値」と「競合優位性」という2つの視点で見える化した自社の技術資産をベースに、技術開発と特許活用の両方を推進する必要がある。このとき、技術開発の部隊と特許活用の部隊が別々に業務を進めるのではなく、互いに連携することが大切だ。

井上潤吾(いのうえ・じゅんご)
ボストン コンサルティング グループ
ボストン コンサルティング グループ(BCG)シニア・パートナー&マネージング・ディレクター。東京大学工学部を卒業し、同大学工学系研究科修了。米ペンシルベニア大学経営学修士(MBA)。日本電信電話、BCGアムステルダムオフィスを経て現職。専門分野はハイテク、通信、金融、電力、新規事業、提携、研究開発、ポートフォリオ・マネジメント、営業改革、IT戦略。著書に『守りつつ攻める企業』(東洋経済新報社)など。