グローバルセンスは、視野を世界へと広げるために必要なさまざまなテーマを、全ての技術者を対象にして紹介するコラムです。2012年11月号から3回にわたって中国工場をうまく管理・運営するために必要な労務管理や関連法規の観点から、工場マネジメントを成功に導く基礎知識を解説します。

 2012年後半において、中国の日系企業を悩ませている1つの問題が、中国人作業員によるデモやストライキでしょう。2012年8月には、尖閣諸島を巡る対立が契機となって中国で反日デモが起きました。デモ隊の一部の過激な映像がテレビやネットで頻繁に報道され、その後の不買運動や工場の稼働停止もあって、日系企業の不安は高まっています(図)。

 作業員が起こした騒動は今回だけではありません。2008年9月のリーマン・ショックに端を発する世界同時不況から脱した2010年の初めには、作業員によるストライキが頻発。その多くは待遇改善を要求するものでした。同様の騒動が日系企業に限らず香港系や欧米系企業でも起こったことから、反日感情と結び付いたものではなかったのですが、いずれにせよ多くの日系企業が対応に苦慮しました。2010年後半以降も中国各地でストライキは散発しましたが、中国内での報道が規制されたこともあり、あまり大きく取り上げられなくなりました。

 そして、今回のデモです。当初はストライキとは結び付かなかったのですが、9月以降になると日系企業の一部で反日をうたったストライキも発生しました。実は、この時も作業員の主たる狙いはやはり待遇改善であり、世間の反日トレンドに便乗しただけだったのですが、日ごろ一緒に働いてきた作業員たちが、表面的とはいえ反日というスローガンを使って行動を起こしたことは、日系企業を運営する側にとって大きなショックでした。

〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図●2012年に中国で起きた反日デモの影響を伝える記事
図●2012年に中国で起きた反日デモの影響を伝える記事
尖閣諸島を巡る日中両国の対立から大規模なデモに拡大し、日系工場の操業停止や日本製品の不買運動などにつながっている。

前川晃廣(まえかわ・あきひろ)
キャストコンサルティング 取締役・上海法人総経理
証券アナリスト・中小企業診断士。1964年生まれ。1981年に初訪中し、1987年に復旦大学国際政治学部に1年間国費留学。1989年に慶応義塾大学政治学科を卒業し日本興業銀行に入行、上海支店課長・広州首席代表を歴任。2008年にキャストコンサルティング取締役、2011年に上海法人総経理に就任。中国関連の法務・労務・税務・M&Aのコンサル業務を展開しながら、日中両国で年60回の講演もこなす。