完璧な設計をしたつもりでも、いざモノを造ろうとするとトラブルの嵐──。背景には、設計意図を正確に伝えるための図面がその役目を十分に果たせていないことがある。設計部門と製造部門の置かれた状況が変わりゆく中、確固たるものづくりを実現するためには図面がどうあるべきか、10の視点とともに探った。(中山 力)

実態編:設計意図が正確に伝わらず、品質起因のトラブル頻発

 「海外の取引先に部品加工を発注した際、設計で意図した通りの形状・品質で出来上がってこなかった。最初は『技術力がない会社だな』と思ったが、よくよく調べてみると図面通りのモノ。こちらが出した図面に問題があったと分かった」。こう語るのは、ある機械メーカーの設計者だ。

 日経ものづくりが実施した技術者へのアンケート結果(回答数531)からも、図面に起因したトラブルが最近、増加していることが明らかになった(図1)。全体の64%の技術者が、この5年間で何らかのトラブルが増加したと感じているのだ。

 具体的にどのようなトラブルが増えているかというと、「設計意図を満たす加工結果(形状や精度)とならなかった」が57.4%と最も多い。「想定よりもコストが高くなった」(37.5%)や「精度のバラつきが大きくなった」(33.1%)、「海外拠点での製造がうまくいかなかった」(31.3%)も3割を超える。
〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図1●図面の品質に起因するトラブルが増加(本誌アンケート)
図1●図面の品質に起因するトラブルが増加(本誌アンケート)
「図面の品質が不十分なことに起因するトラブルの数は、この5年でどのように変化していると感じるか」という設問に対する回答結果。「かなり増えている」と「やや増えている」を合計すると64.0%がトラブルの増加を感じているという結果だった。

視点編:今すぐにでも見直すべき、10個のチェックポイント

視点01:工程能力を正しく把握しているか

 図面の公差は、製造現場の実力を把握しなくては本来、決められないはずだ。公差内で部品がどのようにバラつくのかを想定しつつ、そしてアセンブリ全体の目標品質を最小コストで達成できるように公差を設定することが大切になる。工程能力をきちんと把握しないで決められた公差は、さまざまなトラブルの原因となる(図2)。以下、その例を説明しよう。

 まず、公差が厳しすぎればどうなるか。つまり工程能力が不十分な状態なので、不良品の発生は多くなる。検査によって不良品を排除することは可能かもしれないが、歩留まりが悪いのでコストは高くなる。工程能力を高めようと、加工条件を工夫したり、後加工を追加したりするような取り組みもコストアップの要因だ。

 近年の製品は小型化しつつ、部品の高密度化が進んでいる。そのような製品を設計するには、公差に入っている部品であればどれでも組み付けられるという考え方は適用しにくい。各部品に非常に厳しい公差を設定しなければならなくなるからだ。現実には、設計で厳しい公差を設定しつつも加工では完全に対応できず、組み立ての際に調整などが行われている。従って、製造現場の作業者に調整能力がなくなったり、海外の工場などでの組み立てに移行したりした場合には破たんする可能性が非常に高い。
〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図2●公差と工程能力
図2●公差と工程能力
同じ公差(規格幅)でも、工程能力によってその評価は変わる。規格幅の中で部品がどのようにバラつくのかを想定しつつ、工程能力に見合った公差を設定することが大切になる。

視点02:無駄な公差、無駄な形状はないか

 「この公差指示さえなければ、工程を1つ減らしてコストを大きく削減できるのに、と思うことがよくある」。こう語るのは、順送プレス加工を受託するあるメーカーの技術者だ。板金部品のある部分を図面の指示通りの精度で仕上げるために、プレス加工の工程を1つ増やさなければならなかったという。当然、金型も余計に用意することになる。

 視点1で紹介したように、工程能力を把握した上で各公差を設定することが、設計者に求められる。これに加えて、設計した公差が製品の機能上、本当に必要なものかどうかをきちんと考える必要がある。

 公差の指定だけではなく、形状そのものが必要かどうかを問われる場合もある。特に、流用設計において過去の図面を参照した場合、変更点以外の形状はそのまま流通しがちだ。ところが、加工技術の向上などによって、流用元の図形が最適とは限らなくなってしまう。

 例えば、穴の入り口に面取りがしてあったとする(図3)。目的は、この穴に軸を挿入する際の作業性を向上するためだ。その意味からすると、図面には「C5(45 °で5 mmの面取り)」と記載してあったとしても、「45°」や「5mm」を厳密に守る必要はない。
〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図3●穴の面取り
図3●穴の面取り
穴へ軸を挿入しやすいようにすることを目的に実施した面取り。流用設計では角度や寸法をある程度変更できるので、穴開け加工と同時に面取り加工するようにすれば、コスト削減の余地がある。