今後5年間を展望すると、安全・環境基準の強化がクルマを大きく変えていく。特に予防安全のための自動ブレーキは大型車での義務化が始まり、乗用車でも自動車アセスメントに組み込まれることで当たり前になっていく。一方、厳しい燃費規制に対応するため、エンジンの排気量ダウンサイジングが加速しそうだ。将来のクルマで普及する技術を規制・基準から予測する。(林 達彦)

Part1:日米欧が変化をリード

“ぶつからないクルマ”が当たり前に
95g/kmに向けてダウンサイジング加速

世界で強化される安全および環境の規制・基準は今後5年間に登場するクルマを大きく変えそうだ。自動ブレーキは大型車での義務化、乗用車では自動車アセスメントの評価への組み入れで装着が加速。さらにこの機能を発展させて歩行者を検知する機能も採用が増えそうだ。衝突における被害を軽減するため、オフセット量の小さい衝突に対する車体構造の改良も進む。環境面ではCO2排出量の低減と排ガス基準の強化に対応したエンジン、後処理技術が登場する。

 今から5年後に登場するクルマがどんな機能の搭載を増やしていくのかを予測してみよう。安全技術では予防安全と衝突安全の強化が進み、前者では自動ブレーキ、歩行者検知、リアビューカメラ、タイヤ空気圧警報システム、車線逸脱警報などによって“ぶつからないクルマ”が当たり前になっていく(図1)。一方、後者では25%と小さいオフセット量で衝突しても安全性を確保するボディ、転倒時にもルーフがつぶれにくい構造などが実現する。
 環境技術では、引き続き強化される燃費規制と排ガス基準に対応することが求められる。エンジン車では、ターボチャージャによる過給で排気量をダウンサイジングする傾向が強まりそうだ。一方、最近は実際の走行における燃費や有害物質の排出量が、表示した燃費やクリアした規制値とかい離する問題が起きている。燃費や排ガスの性能が利用実態とかけ離れないようなクルマづくりが求められる。
 こうしたクルマの変化の原動力となるのが、安全性や燃費・排ガスといった環境性能を高めるための日欧米における基準や規制の強化。例えば、大型車では欧州が2013年からAEBS(先進緊急ブレーキシステム)の装着を義務付ける。日本でも大型車で衝突被害軽減ブレーキの義務化が2014年に始まる。

以下、『日経Automotive Technology』2013年1月号に掲載
図1 5年後のクルマが搭載する可能性の高い機能
図1 5年後のクルマが搭載する可能性の高い機能
安全性の向上については、予防安全機能の充実が目立つ。カメラによる車線、歩行者の検知に加え、ミリ波レーダやレーザレーダにより車両を検知する技術の装着が進む。

Part2:予防・衝突安全が進化

大型車で自動ブレーキ義務化
オフセット量の小さな衝突にも対応

予防安全技術のうち向こう5年で最も注目されるのがミリ波レーダやカメラを用いる自動ブレーキ。大型車では欧州で2013年から、日本で2014年からは装着が義務化される。乗用車でも、2014年から「EuroNCAP」で評価対象となるため各社が対応を進める。米国ではリアビューカメラが近く義務化されると見られ、それに伴う新たなシステムが登場し始めた。一方、車体の安全技術では、米国でオフセット量が25%という厳しい衝突試験が導入された。

 5年後のクルマは予防安全技術がより強化されていく。その理由は二つある。一つは大型車での規制強化。欧州と日本で自動ブレーキの法規化が相次いでいる。欧州では2013年11月から新型車にAEBS(先進緊急ブレーキ)の装着とLDW(車線逸脱警報)の装着が義務付けられ、その2年後の2015年から継続生産車にも適用される(図2)。
 日本でも、翌年の2014年からトラック、バスの両方において同様のシステム(日本での名称は衝突被害軽減ブレーキ)が義務化される。大型トラックに関しては2012年3月に法規が決まっており、2014年11月から新型車へ、2017年11月から継続生産車への適用が始まる。さらに、2012年4月29日に関越自動車道で起きた高速ツアーバスの事故の影響もあり、バスもトラックと同じ時期に導入を始める。
 もう一つは乗用車で、欧州の自動車アセスメントである「EuroNCAP」が2014年から安全性評価において、自動ブレーキも評価項目に加えること。最も安全性が高いとされる「五つ星」を取得するのに、低速および中高速での自動ブレーキが求められるようになる可能性が高く、自動車メーカーは2014年に間に合わせようと開発を急ぐ。
 この流れは日本にも波及しそうだ。衝突被害軽減ブレーキを世界に先駆けて実用化した日本だが、自動ブレーキの導入では先行する欧州を追いかける状況。そこで、「JNCAP」でも2014年から自動ブレーキの装着状況を表示し、ユーザーに装備を分かりやすくなるようにする予定だ。

以下、『日経Automotive Technology』2013年1月号に掲載
図2 自動ブレーキの法規、NCAPでの対応
欧州と日本で2013年以降に大型車で義務化されるほか、「EuroNCAP」では2014年から自動ブレーキの装着が事実上五つ星の条件になる。
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Part3:厳しくなる燃費規制と排ガス基準

Dセグメント車も1.0L・3気筒
直噴ガソリン車はPMの数を規制

日米欧といった先進国での燃費基準は今後10年以上にわたってさらに強化される。この対応でガソリン車では過給と組み合わせた排気量のダウンサイジングが進む。一方、直噴ガソリン車でPM(粒子状物質)の新規制が始まるなど排ガス規制の強化も続く。実走行時の有害物質排出量が規制値より多い日本や欧州は新たな試験方法も検討中だ。世界中の燃費・排ガス試験モードを統一する活動によって新しい試験モードが生まれる。

 世界の燃費基準はますます厳しくなる。欧州では2020年に新車のCO2排出量を95g/kmとする目標を設定しており、法規化に向けての準備が始まった。
 また、米国も2025年に乗用車で62.2mpg(26.4km/L)、小型トラックで43.8mpg(18.6km/L)、両者の統合燃費で54.5mpg(23.2km/L)を達成する意欲的な目標を決めた。乗用車の目標は、CO2排出量で143g/マイル(89g/km)と欧州の95g/kmを下回る(図3)。北米で現在販売されているトヨタ自動車「プリウス」の混合モード燃費が50mpgであることを考えると、乗用車の平均をプリウスより24%以上高めるという厳しい目標だ。
 一方、日本の2020年度燃費基準も固まった。それによると、2009年度の車両質量平均1200kgにおける実績値16.3km/Lに対し、24.1%向上させた20.3km/Lを予定する。2015年度燃費基準に対しては19.6%の向上だ。
 この中で最も早く強化が進むのだ欧州の燃費規制である。乗用車はまず今後5年間で、2015年に120g/kmという目標を達成した上、次の5年間で95g/kmまで減らさなければならない。2015年の目標は、車両側で130g/kmを実現し、エアコンの効率向上、タイヤ空気圧警告システム、低転がり抵抗タイヤの装着などでさらに10g/km下げ、120g/kmにする。なお、小型商用車では別途目標があり、2017年に175g/km、2020年に147g/kmを目指す。

以下、『日経Automotive Technology』2013年1月号に掲載
図3 米国の企業平均燃費規制
図3 米国の企業平均燃費規制
2025年までに乗用車は62.2mpg、小型トラックは43.8mpg、統合で54.5mpgを目標とする。