追突事故を起こしそうになった瞬間、自動的にブレーキが作動して停止する。渋滞で加減速を繰り返す高速道路での運転で、前走車を自動で追従してくれる。このような安全で快適な“ぶつからないクルマ”が普及する兆しが見えてきた。普及のカギは、カメラやミリ波レーダといった要素技術の低コスト化にある。数年後の標準装備に向けて各社の開発競争が加速している。

“ぶつからないクルマ”が当たり前に

 「アイサイトをください!」──。

 2012年10月某日、富士重工業のある販売店に1組の家族が来店し、販売員が笑顔で出迎える中、奥さんが開口一番に切り出した言葉だ。

 「アイサイト」とは、富士重工業が現在、さまざまな車種に搭載している運転支援システム「EyeSight(Ver.2)」のこと。ルーム・ミラー付近に取り付けたステレオ・カメラを用いて、相対速度が30km/h以下であれば、前方の障害物を検知して緊急停止する「自動ブレーキ機能」と、高速道路などで前車との車間距離を自動で制御する「前車追従機能」を装備することが特徴だ。

 富士重工業では最近、“車種”ではなく、このような“安全機能”を指名買いする消費者が増えているという。「過去最高の販売台数を実現できたのは、EyeSightの貢献がとても大きい」と同社 常務執行役員 スバル技術本部 副本部長の平川良夫氏は語る。同社は2012年4~9月期の連結決算で、上期の世界販売が34万8000台を記録した。前年同期比で31%もの増加で、世界の自動車市場の成長が鈍化する中で快進撃をみせる。

“ぶつからないクルマ”が続々

 富士重工業の好調な業績が象徴的に示しているのは、「安全機能がクルマの購入に結び付く」という事実だ。「消費者は安全にはお金を払ってくれない」とされてきたが、この常識が180度変わったといえる。

『日経エレクトロニクス』2012年11月26日号より一部掲載

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