アーティストや企業、個人などが、手軽にライブ動画をインターネットで配信できる環境が整ってきた。その市場に向けて、数万~10万円程度で購入できるHD対応のカメラや配信機器を製品化する動きが相次いでいる。これは、ライブ動画配信が従来のテレビのチャンネルと同様の役割を果たすようになる過程の一つだ。従来の高額な業務用映像機器にも影響を与えつつある。

視聴者の支援でライブ配信

 ライブの最後に代表曲が流れ始めると、インターネット上に集まった4万人を超える“観客”の盛り上がりは最高潮に達した。2012年8月18日。音楽家の坂本龍一氏らが動画配信サービス「Ustream」で流した、即興ライブの模様である。

 坂本氏は、以前からUstreamを用いたライブ配信に取り組んできた。今回は、その中でも特に実験的な試みとして関心を呼んだ。ライブ番組の名称は「Ryuichi Sakamoto おひねり Live #1 081812」。その名が示す通りに、演奏を見た視聴者がインターネット上で「おひねり」を支払える仕組みを導入したのだ。

 設定したおひねりの最低額は1口100円。未公開の特典映像を視聴する対価という位置付けだ。ライブ動画自体は無料で視聴できたにもかかわらず、約1100人がおひねりを支払い、総額は60万円を超えた。中には、1人で2万円を支払った視聴者もいたという。

新しい映像のプロが勃興へ

 このライブ動画配信は、「Ustreamチップ」と呼ぶサービスを用いて実現した。日本でUstreamを運営する、ソフトバンク傘下のUstream Asiaが開発した、ライブ動画配信と課金のシステムを組み合わせた日本発のサービスだ。坂本氏の取り組みは、このサービスを活用した第一弾のライブだった。

 「Ustreamチップは、感動を金額に換算して視聴者に支払ってもらう仕組み」と、同社 代表取締役社長の中川具隆氏は説明する。視聴者同士の感動の共有には、SNSなどのソーシャル・メディアが一役買った。ライブ動画と連動したミニブログ「Twitter」では、ライブに関連した投稿の数が約1万件に達した。おひねりを支払った視聴者の投稿による掛け声は、別の視聴者によるおひねりの呼び水にもなった。

『日経エレクトロニクス』2012年11月12日号より一部掲載

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