三菱重工業では2006年から「ものづくり革新活動」(もの革)を展開し、モジュール化や共通化などを通して生産性向上やリードタイム短縮を図ってきた。現在、そのもの革の陣頭指揮を執るのが、技術統括本部長の佃嘉章氏である。佃氏は、もの革による一定の成果を認めつつも、未来を見据えて、「次のステップに移っていかなければならない」と語る。それはズバリ、アジアだ。

写真:栗原克巳

 終わりの見えない超円高や、パートナー企業を含めた製造現場における後継者不足など国内生産を取り巻く環境は厳しく、そろそろ限界に近づきつつあります。そこで次のステップとして、アジアの中で共に成長できるようになることを真剣に考えています。

 当社のような多品種少量型、受注生産型の企業はこれまで、海外の部品を日本に輸入して組み立てて、製品を海外に輸出するという発想にとどまっていました。しかしこれからは、大きな市場のあるところに出て行き、ものづくりをします。

 その代表格が成長著しいインドです。発電所の建設が今後伸びるとみて、2007年に現地の建設最大手で総合重機メーカーでもあるLarsen & Toubro社と蒸気タービン発電機で合弁事業を開始しました。既にボイラ工場やタービン工場を建設し、今ではそれぞれの工場で1000人を超える従業員が働いています。

 実は、これらの工場には最新鋭・最先端の技術を導入しています。インドの工場だから日本の工場よりもグレードの低い技術で十分、と考えたら大間違い。かの地ではフランスのAlstom社をはじめ、ドイツのSiemens社、日本の日立製作所や東芝など世界の名だたる企業が進出し、石炭火力の発電設備を巡って激しい競争を繰り広げています。その中で需要を獲得していくための条件は、競争優位に立てるリーズナブルな価格で「三菱品質」を提供すること。そこで、現地の工場には日本の工場と同等の実力を身に付けさせているのです。
〔以下、日経ものづくり2012年11月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

佃 嘉章(つくだ・よしあき)
三菱重工業 副社長 技術統括本部長
1948年生まれ。1974年4月三菱重工業入社。2001年4月高砂製作所副所長、2002年4月同タービン統括部長、2004年4月同所長。2006年4月原動機事業本部副事業本部長、2007年4月執行役員・原動機事業本部副事業本部長、2008年4月常務執行役員・原動機事業本部長、同年6月取締役・常務執行役員・原動機事業本部長。2011年4月取締役・副社長執行役員・技術統括本部長に就任し、現在に至る。