シャープへの資本参加で日本でもすっかり有名になった台湾Hon Hai Precision Industry社(通称Foxconn)。EMS(電子機器受託生産サービス)業界の世界最大手企業である同社の内情はこれまでベールに包まれていた。今回、プレス加工、工作機械、金型など機械加工技術の大家であり、かつFoxconnの特別顧問を務める中川威雄氏(ファインテック代表取締役社長)がものづくりの視点から見たFoxconnの強みや課題などを特別に書き下ろした。全15ページにわたる渾身の寄稿をお届けする。(大石基之=本誌)

 2012年3月に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業(Hon Hai Precision Industry:通称Foxconn)がシャープに出資して以降、日本のさまざまな報道で、世界最大のEMS企業であるFoxconnの名前が登場することが多くなった。

 筆者は1988年に金型に関する国際会議でFoxconnの郭台銘会長と知り合いになり、それ以降20数年にわたる長い付き合いを続けてきた。私は当時大学で研究生活を送っていたが、定年を迎えた後Foxconnの技術顧問に就任し、2000年には郭会長の出資で日本に生産技術開発を行うファインテックを設立した。

 郭会長と最初に知り合った頃のFoxconnは従業員数200人余りの台北市郊外の小さな町工場だったが、今では中国に約120万人の従業員を抱え、売上高が9兆円を超す巨大企業に成長した。この間は、私にとって何か現実離れした企業成長物語を身近で見聞きしていたようなものだった。本稿では20数年にわたり自分の眼で見てきたFoxconnの姿の一端を紹介する。

 Foxconnは簡単に言えば巨大な下請け企業であり、顧客の企業秘密を守る立場から会社の業容を公開しない方針を取っている。そのせいもあって謎めいた噂が立てられることもあるが、何ら特別なマジックがあるはずはなく、私の見るところ真面目にものづくりに取り組んでいる製造業の1つである。

 むしろ徹底してものづくりに取り組んでいるからこそ、巨大企業へと成長を遂げることができたと思う。私はこれまで主にものづくりの基本となる機械部品の加工技術開発の研究に取り組んできたが、Foxconnはまさにこれらのものづくりを超大規模に行っている製造業といえる。

〔以下、日経ものづくり2012年11月号に掲載〕