第1部<総論>
EthernetとUSBで100W
オフィスや家庭で利用拡大

仕様拡張と共に、適用範囲が広がってきたEthernetとUSB。次世代仕様で、100W前後の電力を供給できるようになる。データ線を電力線として利用する時代がついに到来する。

USBとEthernetの大電力化が電力管理システムや直流給電の普及につながる

 家庭とオフィスにある電力用の“コンセント”が大きく姿を変える。EthernetやUSBといったデータを送受信するインタフェースが、100Wという大きな直流電力を供給できるようになり、通信ケーブルと電力ケーブルの境を消失させつつあるからだ。近い将来、通信ケーブルを電力供給に利用することで、さまざまな機器がネットワーク化すると共に、オフィスや家庭への直流給電の実現が現実味を帯びてきた。

 例えば、コンセントはEthernetとUSBの接続口だけで、ここにつなげば電力もデータのやり取りもできるオフィス・ビルが登場する可能性がある。家庭では、テレビや光ディスク装置、ゲーム機などのいわゆる「黒物家電」をUSBコンセントで動作させることもできるだろう。

 飲食店ではUSBコネクタがずらりと並べられ、顧客はそこから自分の携帯機器を充電する。近い将来、そんな光景が世界中で当たり前になりそうだ。

 これまでにもEthernetとUSBは電力供給の用途で利用されてきた。具体的には、Ethernetは「Power over Ethernet(PoE)」の規格によって、ケーブル1本でデータの送受信と電力供給を可能にし、オフィス・ビルのIP電話機や監視カメラ、無線LANのアクセス・ポイントなど一部の用途で利用されてきた。

 USBも、キーボードやマウス、外付けHDDといったパソコンの周辺機器を中心に、データの送受信だけでなく、電力を供給する用途が拡大している。しかも、給電だけを行う「USB Battery Charging (USB BC)」が2007年4月に策定されてからは、携帯電話機やスマートフォン、タブレット端末の充電アダプタとしてUSBが多用されている。

100W供給が可能に

 EthernetとUSBを電力供給に利用する傾向は、両者の規格それぞれが大電力化することによってより一層強まり、適用範囲は拡大していく。実際、オフィス内に強いEthernetと、家庭に強いUSBという構図で進みそうだ。

『日経エレクトロニクス』2012年10月29日号より一部掲載

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第2部<Ethernet編>
まずはLED照明を制御
BEMSへの適用を視野に

PoEで100W前後の給電が可能になることで、応用範囲が広がりつつある。中でも注目を集めるのがLED照明の制御である。将来的には、BEMS普及のカギを握る構成部品になりそうだ。

PoEの大電力化が進む

 Ethernetを利用して電力を供給する「Power over Ethernet(PoE)」の用途が広がりつつある。そもそもPoEは、標準規格「IEEE802.3af」が2003年6月に成立してから、利用が広がった。電圧は最大57Vで、1ポート当たり15.4Wを出力し、12.95Wを受電側に供給できる。続いて、1ポート当たり25.5Wを受電できる「IEEE802.3at(PoE+)」が2009年6月に策定されたことを契機に対応機が増えた。現在では、オフィス・ビルで利用されているIP電話機や監視カメラ、無線LANのアクセス・ポイントでの採用が増えている。

 最近では、IEEE802.3atの25.5Wを超える電力を取り扱えるPoE技術が実用化されてきた。中でも100W前後の大電力を供給できるのが、米Linear Technology社の「LTPoE++」である。給電側で1ポート当たり125Wを出力し、90Wを受電できる。

 IEEE802.3afとIEEE802.3atは、Ethernetケーブル内のより対線4対のうち、2対を利用する。一方、LTPoE++は4対すべてを使うことで、供給電力を高めている。大電力化に伴い、信頼性を高める目的で、電圧や電流値を検知する機能を給電用制御ICに導入した。加えて、発生する熱を抑制するために、低損失なMOSFETを選択できるように外付け可能な仕様にしている。Linear Technology社によれば、大電力化によって末移動体通信用の小型基地局への適用が可能になったという。2012年末~2013年にかけて、LTPoE++対応のPoE制御ICを搭載した小型基地局などが登場する見込みである。

『日経エレクトロニクス』2012年10月29日号より一部掲載

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第3部<USB編>
7.5Wから100Wへ大幅増
対応ケーブルとICで判別

最大100Wの供給を可能にする「USB PD」では、対応ケーブルを導入し、ケーブルの判別と給電する電力値を専用ICを搭載して決定する。2013年前半には対応製品が登場しそうだ。

2013年前半に「USB PD」対応製品が登場

 USB端子1ポートから最大100Wの給電を可能にする仕様「USB Power Delivery (USB PD) Specification」が2012年7月に策定された。USB 2.0では最大480Mビット/秒、USB 3.0では最大5Gビット/秒のデータ通信を行いながら、いわゆる「バスパワー」として最大100Wの給電が可能になる。

 これまでUSB 2.0のバスパワーは最大2.5W(5V、500mA)、USB 3.0では同4.5W(5V、900mA)だった。この他、携帯機器の2次電池を充電する用途に向けて、データを送受信せずに供給電力を高めた「USB Battery Charging(USB BC)」の場合でも、7.5W(5V、1.5A)だった。バスパワーを最大100Wにまで引き上げることで、USBケーブルでノート・パソコンや30型台の液晶テレビなどのモニターを動作させることができる。

5段階のプロファイル

 USB PDにおける電力供給の範囲は10~100Wである。具体的には10W、18W、36W、60W、100Wと、供給する電力に応じて5段階の「プロファイル」を設けている(次ページの図2)。10W給電をプロファイル1とし、供給電力が高くなるほどプロファイル番号が大きくなり、100W給電できるのがプロファイル5となる。

 USB PDでは、電圧と電流を高めることで供給電力を大きくしている。10Wは5V×2A、18Wは12V×1.5A、36Wは12V×3A、60Wは20V×3A、100Wは20V×5Aで実現する。これまでの電圧5Vを利用しながら、新たに12Vと20Vを加えた形だ。

『日経エレクトロニクス』2012年10月29日号より一部掲載

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