白物家電に沸く電機業界

 テレビやスマートフォンなどのデジタルAV機器事業で苦戦する日本メーカー各社が、攻勢をかける事業分野がある。エアコンや冷蔵庫、洗濯機などから成る白物家電だ。背景にあるのが、白物家電事業の業績が好調に推移しているからに他ならない。

 中でも積極的な動きを見せているのが、これまで薄型テレビをコア事業に掲げてきたパナソニックとシャープの2社である。重電部門がコア事業である東芝と三菱電機、日立製作所の3社も、白物家電事業について安定的な成長を見込んでいる。

『日経エレクトロニクス』2012年10月15日号より一部掲載

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第1部<強さの源泉>
多様化と機能追求
二つの軸で市場を創出

白物家電の強さの源泉は、大きく二つある。多様化による新市場の開拓と、機能追求による既存市場の活性化だ。アイデアと技術があれば、これらの市場を成長させ、高収益を確保できる。

白物家電の二つの成長エンジン

 「2012年9月の発売から2週間足らずだが、想定の3倍のペースで売れている」──。パナソニックで商品企画を担当する山田詩織氏(グローバルコンシューマー マーケティング部門 アプライアンスマーケティング ジャパン本部 商品グループ ビューティ・ヘルスケアチーム 主事)は、自らが手掛けた白物家電の新製品の販売状況にうれしさを隠せない。

 新製品の名称は「目もとエステ」。文字通り、目元に特化した美容家電だ。パナソニックは、ここ数年にわたり、「美容・健康」関連の新製品を矢継ぎ早に投入しており、今後も同分野の事業拡大を計画している。今回の目もとエステは、市場拡大に向けた新たなジャンル開拓といえる。

 美容機器への開発を加速するのはパナソニックだけではない。シャープは2012年9月末、美容家電5製品を一斉に発表し、本格的な市場参入を狙う。2015年度には国内の美容家電市場で20%のシェアを獲得すると強気な姿勢を見せる。

 両社が美容家電に注目する背景には、「高価なエステや化粧品だけでなく、手軽に家で利用できる美容家電が欲しい」と考える消費者の変化を敏感に捉えているからだ。2011年度における美容家電の国内市場規模は約345億円(230万台)と他の白物家電に比べるとまだ小さいものの、「美容家電は一部の人にしか認知されておらず、潜在的な市場規模は2~3倍になる可能性は高い」(シャープ 健康・環境システム事業本部 プラズマクラスター機器事業部 健康美容事業推進センター 所長の六車智子氏)。

 美容家電への各社の取り組みは、白物家電市場に特有となる面白さを示しているといえる。それは、消費者の価値観や生活スタイルの変化に応じて、製品分野を多様化させていけることだ。

機能を追求する

 美容家電のような新しいジャンルではない、エアコンや冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、掃除機といった既存の白物家電では、「買い替え需要が中心であり、市場規模そのものは拡大が見込めるわけではない」(メリルリンチ日本証券 調査部長 マネージング ディレクター 兼 家電AV・精密機器セクターアナリストの片山栄一氏)。だが、製品の価値を高められれば、既存製品とは異なる新たな市場を形成でき、高付加価値商品として大きな収益を確保できる。

『日経エレクトロニクス』2012年10月15日号より一部掲載

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第2部<開発動向>
問われるアイデアと技術
独自の工夫で新規製品が続々

国内市場で、大きな収益を確保している白物家電。独自のアイデアと技術を武器に、競合他社との差異化を図る。多種多様な取り組みによって新たな製品が続々と登場している。

アイデアと技術で挑む

 多様化による新市場の開拓と、機能追求による既存市場の活性化という二つの成長エンジンによって、市場を成長させて高収益を確保してきた白物家電──。明日のヒット商品を生み出すために各社がアイデアをひねり、その実現に向けた技術を競っている。

 2012年夏以降、白物家電の注力分野となっているのが、現状では比較的市場規模が小さい美容家電や小型の調理家電で、各社が新製品を積極的に投入している。美容家電では、パナソニックが、目元に特化した新ジャンルの製品を投入するなど、市場開拓に余念がない。小型の調理家電では、家庭内で料理を食べる「内食」ブームを背景に、各社が市場規模の拡大を狙う。例えば、タイガー魔法瓶と日立アプライアンスがホームベーカリーに、シャープがジューサーに参入した。

 成熟市場である炊飯器や掃除機、洗濯機やエアコンといった製品では、基本性能を追求して、市場を活性化する取り組みが加速している。炊飯器では、米の味の追求を、掃除機では吸引性能の追求をはじめ、ロボット掃除機による自動化が競争軸になっている。この他、洗濯機では洗浄性能を、エアコンでは冷却効率を追求した製品を各社が投入している。

 アイデアと技術を基に市場拡大を狙う最新の白物家電を紹介する。

『日経エレクトロニクス』2012年10月15日号より一部掲載

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