「日産リーフ」のモータを開発する上での重要な狙いが、「加速感」と「スムーズさ」を実現することだった。そのカギを握ったのが、時定数が約2msと応答性の高いモータの能力を発揮させる制御ソフトウエア。線形制御理論に基づくアルゴリズムを実装して「加速感」を生み出し、バックラッシの影響などを抑えて「スムーズさ」を与えた。(本誌)

 日産自動車が開発した電気自動車(EV)「日産リーフ」の商品性を高めるためにこだわった点が、「レスポンスのよい加速」と「スムーズさ」を顧客に感じてもらうことだ(図)。実現のカギを握るのがモータの制御ソフトウエアである。前者を実現するために応答性の高いモータを開発し、その能力を引き出す制御ソフトウエアを実装した。後者に向けては、歯車のバックラッシなどモータに加わる外乱の影響を抑えた。
 もともと、モータのトルクの応答性や静かさはエンジンよりはるかに優れる。このEVの“得意分野”でエンジン車との違いを際立たせることが、EVの商品力を大きく高めることにつながると考えた。

EVの駆動系は線形性が極めて高い

 日産リーフに積むモータは、制御しやすい3相交流同期モータである。トルクの指令値を入力してから実際にトルクが発生するまでの応答時間を2msと短くしたのが特徴だ。ガソリンエンジンの場合は数百ms以下にはできない。モータの応答性を2ms程度まで高めると、車両の動きを狙った通りに制御しやすい。モータの遅れを無視して制御系を設計できる。
 日産リーフの駆動トルクを伝達する系の固有振動数は約9.5Hzである。この系は駆動用モータ、減速歯車、駆動軸、タイヤから成る。固有振動数を時定数に換算すると17ms程度である。

以下、『日経Automotive Technology』2012年11月号に掲載
図 EV用モータの能力を制御ソフトウエアで引き出す
図 EV用モータの能力を制御ソフトウエアで引き出す
(a)日産リーフのモータ。線形制御理論に基づく制御ソフトウエアを実装した。(b)発進時の前後加速度の応答がガソリン車と比べて速く、変動が小さい。